| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-029  (Poster presentation)

カナダツンドラにおける植物群落構造が生態系の多機能性に及ぼす影響

*増本翔太(横浜国立大学), 北川涼(横浜国立大学), 西澤啓太(横浜国立大学), 長谷川元洋(森林総合研究所), 大園享司(同志社大学), 内田雅己(国立極地研究所, 総合研究大学院大学), 森章(横浜国立大学)

 これまでの理論的・実験的検証の結果、植物の種多様性が生態系機能の向上と安定性に寄与することが報告されている。しかし、自然生態系においては、様々な種による複数の生態系機能が同時に変動しており、このような多機能性を考慮した場合、多様性が生態系機能性に与える影響については未だ不明な点が多い。一方で、これら多様性と多機能性の関係は、環境変動に伴って変化すると考えられる。したがって、自然生態系における多様性―多機能性の関係解明は、環境の変化に伴う生態系システムの改変を理解するうえで重要である。
 北極域は、全球平均の約2倍の速度で温暖化が進行しており、環境の変動が生物多様性とそれを介した生態系機能にどのような影響を及ぼしうるかが注目される。そこで本研究では、北極ツンドラ生態系の植物多様性と多機能性との関係を明らかにすることを目的としした。本発表では、経年計画の初年度において植物多様性と多機能性の関係性を調査・解析した結果を発表する。
 調査地はカナダ・ラブラドル半島のハドソン湾側に位置するクジュアラピック(北緯55度)の10km圏内。森林の北限にあたる調査地周辺には森林植生とツンドラ植生が混在しているが、本研究ではツンドラ植生を対象として調査を行なった。調査地に1m2の試験区を200区設置し、各試験区の群集構造、地上部バイオマスなどの生態系機能に加え、土壌環境などを計測して、それらの関係を解析した。
 解析の結果、種多様性と多機能性との間に正の相関関係が見られた。一方で、多様性と各機能性との間には有意な相関関係は検出されなかった。また、各環境要因は多機能性に対して、それぞれ正にも負にも働きうる結果となった。これらの結果から、ツンドラ生態系においても多様性の効果が生態系多機能性にとって重要であると同時に、物理環境も多機能性に影響を及ぼしうることが示された。


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