| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-047  (Poster presentation)

雪解け時期の早まりが森林の下層植生と成木に及ぼす影響の違い: 大面積操作実験による検証

*小林真(北大FSC), 片山歩美(九大演習林), 丸毛絵梨香(北大院環境), Bryanin, Semyon(Institute of Geology & Nature Management, Russia), 高木健太郎(北大FSC)

冬の温暖化にともなう雪解けの早まりが、北方の森林生態系へ及ぼす影響が懸念されている。森林は上層木と下層植生から構成される垂直方向に巨大な生態系であるが、雪解けの早まりがこの2つの要素へ及ぼす影響を同時に検証した例は見ない。雪解けの早まりは、早期からの地温上昇につながり、土壌微生物の活性化を介して窒素無機化を促進すると予想される一方、土壌の乾燥化も懸念される。また、雪解けの早まりは、雪の中に埋没している下層植生については成長期間を延ばす一方、常時、雪面より上に冬芽を持っている成木については、顕著な影響を及ぼさないことが予想される。本研究では、ジェットヒーターを用いて森林の雪解け時期を2週間ほど早める操作実験を行い(処理区および対照区それぞれ20m四方×4林分)、土壌条件や主要樹種であるダケカンバの成木と水平方向に広がりを持つクマイザサの葉の形質やシュート成長への影響を検証した。年の初冬から春先までの土壌中の窒素の無機化速度は、雪解け処理によって増加する傾向を示した。一方、土壌水分条件について、雪解け処理は顕著な影響を示さなかった。雪解け処理は、クマイザサの葉内の窒素含有量を上昇させたが、ダケカンバについては顕著な影響を及ぼさなかった。葉の単位面積辺の乾重量については、クマイザサ及びダケカンバともに雪解け処理によって減少した。葉への乾燥ストレスの指標となる葉のδ13C値は、ササとダケカンバともに雪解け処理による影響が見られなかった。これらの結果は、北海道北部の森林において雪解けが早まると、下層植生が吸収可能な土壌中の窒素量が増加し、その成長が促進される一方、上層木の成長については有意な影響を及ぼさず、森林植物の群集構造が変化する可能性を示唆している。


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