| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-056  (Poster presentation)

古墳時代以降の人間活動が現在の自然林に与えた影響を評価する

*小川みふゆ(東大院, 元国環研), 石濱史子(国環研), 深澤圭太(国環研)

人間活動による森林の消失や分断による生物多様性の劣化や生態系サービスの消失は世界的な問題である。中でも自然林は、生物多様性に与える影響が大きいと考えられているにもかかわらず、世界的には減少が続いている。

森林の分布は、気候的要因と人為的要因のそれぞれの視点から説明されてきた。しかし、現在の自然林の分布を全国スケールで理解するには、気候要因に歴史を含んだ人為的要因を加えて解析する必要があると考えた。そこで、日本全国標準土地利用メッシュデータ、奈良文化財研究所の遺跡データベース、気象庁のメッシュ平年値、数値地図250mメッシュを用いて、自然林と気候値、地形、現在の土地利用(農地と市街地)、および遺跡の分布について回帰分析を行った。

日本の自然林の分布は、近年の年降水量や積雪深といった気候値、地形、および現在の人間活動としての農地と市街地で説明できる部分が大きかった。さらに、近世の産業圧のうち、製鉄による負の影響を検出することができた。近世の製鉄跡地の遺跡は、山陰地方、東北南部に集中し、これらの地域で自然林率が低く、負の効果が検出されたと考えられた。このことから、現在の土地利用だけではなく、過去の人間活動も生態系に影響をおよぼしている可能性のあるパラメータとして考慮することの重要性が示唆される。

近世の製鉄が自然林の分布に影響をおよぼしていた理由として、地形改変を伴う「鉄穴(かんな)流し」という方法がとられるようになったことをあげる。近世の製鉄跡地は、自然林の分布に対して負の効果があり、最も長く見積もると400年前の人間活動が現在の自然林に影響をおよぼしている可能性が考えられた。


日本生態学会