| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-060  (Poster presentation)

実景シミュレーションなどによる近世真景図の資料性検証 -真景図をもとにした植生景観復元-

*小椋純一(京都精華大学)

 絵図類の中には真景図などと称され,実際の風景の詳細な写生をもとに描かれたと見られるものがある。今日まで残るそうした絵図類の中には,「天橋立図」(16世紀初頭頃,雪舟筆)などのように室町時代以前に描かれたものもあるが,その多くは江戸時代中期以降に描かれたものである。その江戸中期以降の流れの中で,円山応挙(1733-1795)の果たした役割は大きい。写生を追求した応挙の影響を強く受けたと考えられる原在中(1750-1837)の作品の中にも,そうした真景図がある。ここでは,原在中が描いた『東山三十六峯図巻』(1803,京都文化博物館管理)をとりあげ,その資料性を現況地形や同時代の絵図類の描写との比較などから明らかにし,それが描かれた頃の京都東山などの植生景観を考えてみた。
 真景図のような絵図の写実性を明らかにする一つの方法として,図が描かれた視点を明らかにした上で,詳しい地形情報をもとにした現況地形と図の描写との比較考察がある。そのために,多機能地理情報ソフトである“カシミール3D”を使用した。また,図に描かれている樹木などの大きさを推定するために“AutoCAD”を用いた。一方,『東山三十六峯図巻』と同時代の図には『華洛一覧図』(1808,横山華山筆)などがあり,そうした同時代の図との比較考察も行った。また,図の視点と比較的近い視点からの現況との比較考察も行った。
 その結果,『東山三十六峯図巻』には,一部省略などもあるものの,大部分は実際にかなり写実的に描かれている可能性が高いことが確認できる。そして,図の描写や図と現況との比較などから,その図が描かれた頃,京都東山など京都周辺の山々には,植生がかなり低いところが多く,高木が見られるところは一部に限られていたと考えられる。また,比叡山中腹などの一部には草木のないハゲ山が広く見られるところもあったと考えられる。


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