| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-C-122  (Poster presentation)

複数時間スケールの個体群動態モデリングによるcatchabilityの変動要因の推定

*西嶋翔太(水産機構・中央水研), 鈴木重則(水産機構・増養殖研), 市野川桃子(水産機構・中央水研), 岡村寛(水産機構・中央水研)

捕獲確率 (catchability) や発見確率は個体群サイズや密度を推定するうえで重要なパラメータである。捕獲・発見確率は個体数や密度、環境要因、人為的要因に依存して変化することが多く、それらが一定であると仮定すると、個体群サイズの推定にバイアスが生じる可能性がある。

本発表では、短期と長期の個体群動態モデルを統合することによって、捕獲確率の変動要因の解析と個体数推定を同時に行う手法を提案する。このモデルでは、個体群サイズや努力量、環境要因の捕獲確率への影響を組み込むことができる。まず、短期的なモデルとして除去法 (removal method) を使用し、月別の捕獲データから各年の捕獲確率と個体群サイズを推定する。次に、短期的なモデルで推定された個体数を指標として、長期的な個体群動態モデル (virtual population analysis) を適用する。個体群動態モデルで推定された個体数を捕獲効率の説明変数とするため、2つの異なる時間スケールのモデルの適用を交互に繰り返し、パラメータ推定を行う。

このアプローチをトラフグ伊勢・三河湾系群の漁獲データに応用したところ、捕獲確率の時間変動を考慮したモデルの予測力が、考慮していないモデルのものを大きく上回り、漁獲努力量と個体群サイズが捕獲確率の変動要因として重要であった。捕獲確率の変動を考慮したモデルは、捕獲確率を一定と仮定したモデルに比べて、近年の個体群サイズの推定値が低くなり、資源量の過大評価の回避に役立つことが示唆された。この下方修正は、漁獲努力量の減少に伴い、捕獲確率が上昇傾向にあることが原因であった。

この結果は、本モデルが適切な資源評価に基づく持続可能な水産資源の利用に役立つことを示唆している。2つの異なる時間スケールの個体群動態の相互作用効果を組み込んだモデルは、密度依存的な捕獲確率を示す可能性がある野生生物管理や生態系保全の個体数推定において有効なアプローチである。


日本生態学会