| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-C-126  (Poster presentation)

冷温帯林に生息するヤスデの周期的大発生の変動とその要因

*橋本みのり(大東文化大学)

 近年の気温上昇やそれに伴う異常気象は生物の活動にも影響を与えると考えられる。特に、気温の低い地域を生息域とする種にとって気温上昇による環境変化は大きな影響となり、これは温度変動が少ない土壌中でも同様と考えられる。本研究では、冷温帯林土壌に生息する土壌動物キシャヤスデ(Prafontaria laminate armigera)の生息状況を調査し、気象の変化との関連を調べた。
キシャヤヤスデはヤスデ類の1種で、中部地方の冷温帯林に生息する固有種である。1世代は8年で、1年に1齢ずつ脱皮して成長し、7齢幼虫までの7年間を土壌中で過ごす。8年目に成虫になると地表で活動し、表層の腐植を大量に摂食する。個体群内では齢がほぼ均一で、成虫となって地表に出現する時期には一斉に活動する。年に1度の脱皮は夏季に土壌中で行われるが、その脱皮や産卵は冬季に一定期間低温状態を経験することによって誘発される(藤山・吉田 1984他)。成虫の発生は8年毎の周期発生となり、その際には“大発生”として話題になることもある。この種の生息数が多い八ヶ岳南麓では2016年秋に成虫が出現している。
これまでの研究によれば、本種の生息域は標高700m~1800mの範囲で(伊藤ら2001)、1500m付近までの地域では、“大発生”がしばしば確認されてきた。しかし、昨年秋には標高が低い地域では大発生は全く見られず、その一方で1600m~1800mで大発生が確認された。発生の規模が最も大きかった4世代前(1984年)と比較すると、冬季の気温が上昇しており、気温変動の上下幅も大きくなっている。これらから、キシャヤスデは気温が上昇した地域での生息数が減少し、より低温な地域において個体数を維持、あるいは増加させていることが示唆され、気温上昇による環境変化は地上の生物のみならず土壌中の生物にも影響を与えていることが推察される。


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