| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-F-208  (Poster presentation)

オオイタサンショウウオにおける遺伝的多様性と繁殖期間の関係

*永野昌博(大分大学), 香川美樹(大分大学), 菅原弘貴(首都大学東京)

 オオイタサンショウウオHynobius dunniは,大分県の低地,低山地の里山的環境に広く生息している。しかし,近年,宅地開発や里山放棄などの人の影響によって,本種の多くの個体群は,縮小・絶滅しつつある。そのため,本種の保全活動は急を要しているが,本種を保全するために必要な生態学的研究はほとんど行われていない。特に,集団遺伝学的アプローチによる,遺伝的多様性と繁殖生態や個体群の維持に関する研究は皆無である。また,遺伝的多様性が繁殖生態などの生活史に及ぼす影響についての研究は他の生物群を含めてもほとんど知られていない。そこで,本研究では,オオイタサンショウウオにおける個体群サイズと遺伝的多様性の関係,ならびに,個体群の遺伝的多様性と生活史(繁殖期間の長さ)の関係を明らかにすることを目的とした調査を行った。
 調査方法は,大分市内のオオイタサンショウウオの生息地9カ所において,2014年11月から2015年の5月まで6ヶ月間,個体群サイズと繁殖期間の指標として,新規卵嚢数を調査した。また,各個体群の異なる卵嚢から卵を5つ採取し,マイクロサテライトDNAを用いて各個体の遺伝子型,および各個体群の遺伝子多様度を調査した。
 結果,個体群の大きさと繁殖期間は長さには,有意な相関関係がみられた。個体群の大きさと遺伝的多様性の高さにも,有意な相関関係がみられた。また,繁殖期間の長さと遺伝的多様性の高さにも,有意な相関関係がみられた(ピアソンの相関分析,P<0.05)。
 本研究は,遺伝的多様性と生活史(繁殖期間)の多様性の関連性を実証した数少ない例となった。また,本研究は,遺伝的多様性の低下により,生活史の多様性が低下し,それにより,個体群がより小さくなるという,これまでと異なる観点の絶滅スパイラルの可能性を示唆した。


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