| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-H-251  (Poster presentation)

菌根菌の多種共生系維持機構に関する考察

*門脇浩明(京都大学生態学研究センター)

菌根菌は、土壌中の窒素やリンを効率よく回収し、余剰分を共生相手である植物に供給し、その対価として光合成産物を受け取る。この共生関係では、一般に、一つの植物に複数種の菌根菌が共存し、同時にこれらの菌根菌が多数の植物種と共生し菌根ネットワークを形成する。しかし、この菌根ネットワークは菌根菌の多種共生系であるため、様々な生態的・進化的なパラドクスを含んでいる。例えば、植物にとって、複数種の菌根菌が存在する場合、炭素供給量あたりの窒素の見返りが大きい「質の高い共生者」と窒素の見返りが少ない「質の低い共生者」が生じる。植物が自身の利益を優先するならば、質の高い共生者を選択することが進化的必然であるが、自然条件下では、必ずしも質の低い共生者が排除されるわけでなく、複数種の菌根菌が共存する。本発表では、多種共生系維持機構のパラドクスについて、物質交換、競争、協力関係の維持、植物土壌フィードバックの観点から総括し、遷移と菌根ネットワークの発展を軸に、どのような要因がどのようなステージで影響を持つのかを整理する。菌根菌機能連続体論や、菌根共生における菌類ニッチと特殊化など主要な概念を整理統合したうえで、アーバスキュラー菌根菌と外生菌根菌を対比させつつ、これまでの研究の総括と今後の課題を設定することを目的とする。これらの知見を踏まえ、以下の2点、(1)菌根菌群集の多種共生系の問題は、進化生態学、群集生態学、生態系生態学の知識と手法を総動員しなければ解決できない問題であること、(2)地球環境変動の時代である現在、土壌含水率(乾燥ストレス)・土壌肥沃度・二酸化炭素濃度・光強度などをニッチ軸とした生態的進化的動態を注意深く調べることが重要であること、を強調したい。


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