| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-L-341  (Poster presentation)

性選択作用下での形質置換:ミナミカワトンボ類のオスの繁殖形質の地理的変異

*林文男(首都大学東京)

 中国中部からインドシナ半島の東部側にかけて分布するミナミカワトンボ科の内,Euphaea属にはオスの翅に黒斑(あるいは褐色斑)を有する種が多い.メスの翅にはこうした斑紋がないことから,オスの翅の斑紋にはオス間闘争やメスによる配偶者選択という性選択が作用していると考えられる.実際に,オスの体サイズと様々な外部形態のアロメトリー解析を行うと,翅の斑紋長にとくに強い正のアロメトリーが認められた.一方,複眼のよく発達したトンボ類の翅の模様は種の認知機構としても機能する.ミトコンドリアDNAに基づくEuphaea属の系統解析では,極めて近縁な多くの種が認められ,交雑を防ぐように,翅の斑紋に形質置換が生じていることが予想された.この場合,性選択によってオスの翅の斑紋は発達する方向に,逆に,交雑を防ぐための形質置換が強く生じると他種の影響で翅の斑紋の発達が制限されることになる.その結果,各種のオスの黒斑の大きさは種ごとに一定値に収束すると期待される.実際に,これらの地域でEuphaea属各種のオスの翅の斑紋を比較すると,その地域に同所的に分布する種間で黒斑の発達程度に違いが認められ,共存種の少ない北部から,多くの種が共存する南部にかけて,オスの翅の黒斑に種ごとの重なりがないような地理的変異パターンが認められた.このように,性選択が作用する形質では,そうでない形質に比べ,形質置換によって他種との交雑を防ぐことのできる形質範囲で最大化されるため,種間の形質差が大きくなり,その結果として他種の共存(種分化)を可能にすると考えられる.


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