| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-L-354  (Poster presentation)

カワヨシノボリにおける遺伝的集団構造とmtDNAの系統地理

*向井貴彦(岐阜大学地域科学部), 加藤千尋(岐阜大学地域科学部), 清水孝昭(愛媛県水産研究センター)

日本列島には17種のヨシノボリ属魚類が分布するとされており,その多くは両側回遊性もしくは湖沼性の生活史を送る.しかし,西日本に分布するカワヨシノボリRhinogobius flumineusは,他の両側回遊性や湖沼性のヨシノボリ属と比べて極端に大きな卵を産み,生まれた仔魚は流れのある河川ですぐに底生生活を送る河川陸封種である.本種の遺伝的集団構造については,山梨県から長崎県福江島までの34集団を対象にした23酵素遺伝子座のアロザイム分析によって,分布東限付近の集団が他地域から遺伝的に分化していることが示されている(Shimizu et al. 1993).本研究では,同様に山梨県から福江島までの50地点で採集した268個体のミトコンドリアDNA(mtDNA)チトクロームb 遺伝子の塩基配列を決定し,日本産の同属他種を含めた系統解析をおこなった.その結果,カワヨシノボリのmtDNAは大きく3系統(Lineage I, II, III)に分かれており,そのうちの一つの系統(Lineage III)は同属他種に近縁であった.Lineage Iは中部地方から瀬戸内海周辺地域に分布し,系統内での分化パターンは,アロザイム分析によって推定された遺伝的集団構造にやや類似していた.Lineage IIは福江島固有であり,他種に近縁なLineage IIIは四国南部と中国地方西部から九州北部に分布していた.アロザイム分析ではこれらの地域集団間の遺伝的分化は小さく,アロザイム分析とmtDNAの系統には大きな違いがあることが明らかになった.これらの遺伝マーカーによる相違は,本種の分布域形成において遺伝的に分化した集団の融合が生じたことによるものと考えられる.


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