| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-L-355  (Poster presentation)

内部寄生性腹足類の殻は退化的なのか?

*高野剛史(東京大学大気海洋研究所), 佐々木猛智(東京大学総合研究博物館), 狩野泰則(東京大学大気海洋研究所)

軟体動物の貝殻は代表的な生体鉱物のひとつで、捕食者に対する防御の役割を果たす。一方、殻形成にはコストがかかることから、他の防御機構の獲得や間隙環境への進出に伴い、特に腹足類で何度も進化的消失が起こっている。貝殻は一般に結晶の質が異なる複数の層からなるが、その退化過程において各層がどのように変化するかについては知見が乏しい。
ハナゴウナ科は棘皮動物に寄生する腹足類の一群で、多様な生活様式を示す。殻の形・厚さが種間で大きく異なり、一時寄生種は細長く厚い殻を、永続的な外部寄生および内部寄生種は球形で薄い殻をもつ傾向があり、また殻を完全に失った種も含まれる。ハナゴウナ類の現生種は殻の様々な退化的段階を例示しており、よってその進化的な消失過程を理解するのに恰好の材料と考えられる。
本研究では、形態、生態および系統的多様性を可能な限り網羅するよう選択したハナゴウナ類19種を対象に、走査型電子顕微鏡を用いた貝殻断面の微細構造観察および厚さの計測を行った。その結果、①ほとんどの種において交差板構造が殻の厚みの大部分を占め、螺管内側に異なる結晶構造の層を付加する「裏打ち」が行われること、②永続的寄生種、特にホスト体内に寄生する種は系統によらず薄い殻をもつこと、また、③そのような種の一部では、裏打ちも行われていないことが明らかとなった。以上により、被食を含む物理ダメージを負うリスクが低い種では防御機構としての殻が退化的であること、一方で個々の結晶構造は科全体で保存的であり、各層の厚みが変化し、加えて裏打ちによる補強がなくなることにより薄質の殻となっていることが示された。


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