| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-L-357  (Poster presentation)

適応度への他者からの影響の統一的理解:血縁選択・性選択から種間の「隣縁選択」へ

*土畑重人(京都大学 大学院農学研究科)

社会進化理論の中心となる理念は,個体の適応度が個体自身の形質のみならず,相互作用相手の形質から(へ)も影響を受けうる(与えうる)というものである.形質と適応度との共分散によって形質の進化的変化を記述するプライス方程式を弱選択仮定のもとで展開することで,形質の進化的変化は,自分自身と相互作用相手の形質が自身にそれぞれもたらす選択勾配,自身の形質の遺伝分散,および自身・相手の形質間の遺伝共分散で表現することができる.本発表ではまず,最後に挙げた遺伝共分散を軸に,性選択理論(ランナウェイ過程)と血縁選択理論との相似性について論じる.遺伝共分散がどのようなメカニズムで生じるかは生物学的文脈に依存している.血縁選択理論においては,単一の形質(例えば利他性)が自身・相手双方で発現することを仮定するため,遺伝共分散は同祖遺伝子を共有する確率(血縁度の構成要素)の上昇によって生じ,性選択のランナウェイ過程においては,遺伝共分散は交配における自身と相手2つの形質の間のassortativeな関係と,それに伴う連鎖不平衡によって生じる.それでは,相互作用相手が他種個体である場合はどうであろうか.ここでは新たに,種間の遺伝共分散を伴う共進化の駆動要因を「隣縁選択」と名付け,隣縁選択がどのようなメカニズムで生じるかを,擬態や送粉系における収斂進化を例に検討する.特に,2種の相互作用が別種である第三者によって媒介される場合,遺伝共分散の発生には2種の集団構造に時空間的な相関は必ずしも必要ではないことを述べる.ミュラー型擬態においては,2種の相互作用(互いに類似することによる捕食者回避)が祖先を共有する遺伝子によって支配されている例が知られている.近縁種間の相互作用においては,祖先を共有する遺伝子どうしの影響が種間の遺伝共分散をもたらしている例が他にも存在するかもしれない.


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