| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-N-394  (Poster presentation)

スギ・ヒノキを用いた葉と根の分解過程の比較-溶脱炭素量に着目して-

*谷川東子(森林総合研究所関西支所), 平野恭弘(名古屋大学大学院), 宮谷紘平(名古屋大学大学院), 土居龍成(名古屋大学大学院), 孙丽娟(京都大学大学院), 溝口岳男(森林総合研究所関西支所), 藤井佐織(アムステルダム自由大学)

 樹木根は土壌の性質に影響を受けやすい器官である。我々は先行研究において、土壌が酸性化するとスギ林の細根バイオマス量が高くなる現象(一方でヒノキでは変化がないこと)を確認した。この現象は、スギ林土壌では落葉に比べ相対的に落ち根の存在感が増す可能性を示している。次のステップとして、細根バイオマスの増加が逆に土壌に与える影響を評価したいが、それには葉と根が本来持つ、分解生成物の特性を明らかにする必要がある。これまで研究の多くは分解残渣(固体)の違いに着目しているが、分解の過程で放出される溶存成分(液体)についての知見は限られている。そこで本研究では、スギおよび対照としてヒノキの葉・細根について、オープンシステム培養(定期的に人工雨を降らせることで、その溶脱液を得る方法)を2年半行い、その溶脱液の炭素濃度(TOC)を測定した。
  両樹種、両器官ともに培養初期のTOCは高く、培養5か月目までに急速に低下した。5か月目以降、葉のTOC濃度は時間とともに低下し続け、根の濃度は上昇し続けた。基質の呼吸を培養期間中3回測定したところ、呼吸が高いサンプルは溶脱液のTOC濃度が低く、溶脱炭素は微生物の食べ残しであることが示唆された。分解で失われる炭素のほとんどが呼吸によるという計算になったが、微生物に食べ残されて放出される炭素成分は根のほうが培養期間の中後期で増えることから、根は葉に比べ、その分解過程で長く土壌に影響を与えることが示唆された。分解残渣重量はヒノキ葉<スギ葉=スギ根<ヒノキ根、積算TOCはヒノキ葉>スギ根>ヒノキ根=スギ葉の順であったことから、スギ根由来の溶存炭素はヒノキ根のものより分解されにくい可能性がある。以上の結果から、溶存成分が土壌に与える影響の強さには樹種差があり、また器官差は一定の序列にないこと、スギ林土壌では落ち根の量が増せば、その分解の影響を土壌はより強く受けることが推察された。


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