| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-421  (Poster presentation)

地理的隔離する北方樹木グイマツ2系統の復元―ゲノム情報を用いて

*石塚航(北海道立総合研究機構林業試験場), 田畑あずさ(北海道大学低温科学研究所), 小野清美(北海道大学低温科学研究所), 福田陽子(森林総合研究所育種センター北海道育種場), 原登志彦(北海道大学低温科学研究所)

北方樹木の1種であるカラマツ属グイマツ (Larix gmelinii var. japonica) は、現在の自生地が千島列島の一部(色丹島、択捉島)と樺太(サハリン)のみに限られている。これまでの花粉分析や植物遺体調査より、本種は、最終氷期には北海道や本州北部にも分布したことがわかっている。また、最終氷期の海岸線は現在よりも約100mほど低かったことや、同種別変種が広く極東からサハリンに現在も分布していることも加味すると、グイマツは大陸と陸橋でつながっていた寒冷期に北方より北海道、千島列島、本州へと分布を拡大し、その後の温暖期に北海道や本州で地域絶滅して、現在のような地理的に隔離した分布に至るというシナリオの分布変遷仮説が考えられる。
一方、地域絶滅している北海道では、古くからグイマツを林業用樹木として導入してきた経緯があり、今後さらなる利用も見込まれている。その際、隔離分布地のどちらから導入されたかという来歴が不正確であったことから、ゲノム情報を用いた由来系統の復元が求められている。
そこで本研究では、グイマツ葉緑体の全ゲノムシーケンスと形態調査によって、現在北海道で利用されているグイマツ育種集団の系統推定を試みた。外群も含めて計20家系より葉緑体DNAを抽出し、網羅的塩基配列解読によってゲノム上の変異を探索するとともに、開葉・黄葉フェノロジーの違いを定量化した。
構築したハプロタイプネットワークや系統樹、また形質との関連解析からは、千島・樺太由来の2群の存在や、既に指摘されている群間のフェノロジー差異が認められたものの、2群間の分化の程度が浅く、フェノロジーも完全分離しないことや、未知の系統が検出されたこともわかった。これらから、より深く分布変遷の歴史を推定していくことが可能である


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