| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-423  (Poster presentation)

ブナの潜在生育域の気候条件と分布北限個体群の実態

*田中信行(東京農業大学), 北村系子(森林総合研究所), 津山幾太郎(森林総合研究所), 中尾勝洋(森林総合研究所), 松井哲哉(森林総合研究所), 井関智裕(東京植生研究会), 斎藤均(黒松内町ブナセンター)

気候温暖化に伴いブナの分布は北上するが、ブナ個体群の北限の実態はどうなっているのであろうか?本研究では、ブナの分布可能な環境にある地域(潜在生育域)の気候条件、北海道における潜在生育域の将来予測、北限個体群の実態に基づき北進について検討する。
 ブナの分布北限の成立理由について8つの仮説があるが、気候決定仮説と北進仮説に大別できる。ブナの優占林と個体の分布全域の分布予測モデルによると(Matsui et al. 2004、 Nakao et al. 2013)、ブナの分布の北限・上限は冬期の寒さで、南限・下限は生育期の熱量で、優占度は積雪で、おもに規定されている。また、北海道の北部・東部の地域は、ブナ林には寒冷少雪のため、個体には寒冷のため、非生育域に入ると予測される。分布予測モデルは北海道を含む全国の分布データを用いて構築されているので、北海道の現在気候下の潜在生育域は過小予測になっているはずだが、日本海沿いに広がり稚内に達している。この結果は、北進仮説を支持する。将来気候シナリオに基づくと、北海道の潜在生育域の面積は大きく増加すると予測されている。
 これまでの研究によると、北限最前線付近のブナ個体群は過去から現在まで増加しており、将来も増加と分布拡大を続けると推定されている。2013年にニセコ山系で発見したブナ個体群は、北限最前線より北に12km離れている。最高樹齢は131年で、いろいろな大きさの個体があるとともに小さい個体が多いことから、ここでもブナの増殖が推定される。この新分布北限個体群の最初の個体の侵入時期が古いこと、周辺地域における広域の現地調査でブナが発見できなかったことから、北限最前線以北における他のブナ個体群の密度は大変低い。新分布北限地点に基づく移動速度は約12m/年である。このようにブナの北限個体群の分布移動は、近年の温暖化にもかかわらず大変遅いといえる。


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