| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-431  (Poster presentation)

部分的菌従属栄養植物キンランの地上部消失について

*寺井学(大林組 技術研究所)

 キンラン保全のため、その生活史を知ることを目的として、武蔵野台地上のコナラ二次林(約1.5ha対象)において、1998年から個体調査を継続して行っている。1998年は個体位置を、1999年からは個体位置を標識して草丈と開花数を調査し記録した。また、林床を明るく、風通しよくするため、適度なササ刈り、つる草(オニドコロ、シオデ、ヘクソカズラなど)や落枝と倒木の除去を適宜行っている。
 キンランは1998年の233個体から、2016年は575個体に増加した。19年間の個体識別した調査データを分析した結果、合計795個体が出現し、そのうちの193個体(24.3%)は、地上部消失のブランク年を経て復活した個体(2本以上の株立ち個体の本数回復は除く)であった。ブランクは252回あり、同一個体で2回以上復活したものもあった。ブランク年の大半は1年で203回(80.6%)、2年以上のブランクを経た個体もあり、5年以上のブランクを経たキンランも7個体あった。1998年と2016年の両年で確認したキンランは144個体あり、19年間連続して地上部が出現し続けたものは80個体、一部ブランク年があり復活したものは64個体あった。
 調査中の観察から、キンランの地上部消失は、前年に芽が形成されず地上部が出てこない、出芽するものの落葉層や倒木の下に埋もれて地上に達しない、出芽中あるいは展葉途中で組織が軟腐してしまう、などで生じていた。
 19年間の調査を通じて、キンランは生育期の夏季に地上部が消失していても、翌年以降、地上部が復活するという生活史が、全個体の約1/4で確認された。キンランは部分的菌従属栄養植物であり、生育期の夏季に地上部が消失し光合成を行うことができなくても、地中で外生菌根菌から栄養を得ることができる。地上部の消失と復活が生じることは、キンランと外生菌根菌との共生関係に由来するものと考えられた。


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