| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-P-445  (Poster presentation)

熱帯降雨林樹木の繁殖器官のリン濃度と土壌リン可給性の関係

*辻井悠希, 北山兼弘(京都大学農学研究科)

リンは生物の必須元素だが、熱帯林ではしばしば欠乏している。低リン環境の熱帯樹木はリン欠乏への適応機構を発達させており、その生理生態学的メカニズムの解明は熱帯生態学の重要な課題である。繁殖器官のリン濃度低下はリン欠乏への適応機構の一つと考えられている。私たちは、先行研究において、ボルネオ島のリン可給性の異なる8つの熱帯林について10年間のリターデータを解析し、低リン環境の熱帯林ほど繁殖器官リターのリン濃度が有意に低下することを見出した。さらに、この現象について次の2つの仮説を提案した。1)低リン環境では花・果実など繁殖器官のリン濃度の低い樹種が選択される。2)土壌リン傾度に沿って液果などをもつ樹種から蒴果などをもつ樹種に優占種が交代する。このため、低リン環境ほど、繁殖器官に占めるリン濃度の低い組織の割合が大きい。しかし、これら仮説はこれまで検証されていない。本研究では、キナバル山の土壌リン濃度が異なる8つの熱帯林において優占樹種から花・果実を採集し、花・種子・種子を除いた果実のリン濃度を測定した。上述の仮説を検証するために、土壌リン濃度と花・種子・種子を除いた果実のそれぞれのリン濃度との関係を単回帰分析により解析した。この解析は、果実タイプ(液果・堅果など)の違いを考慮するために果実タイプ別に行った。種子と種子を除いた果実のリン濃度は、ほとんどの果実タイプにおいて土壌リン濃度と有意な関係が見られなかった。一方、花序のリン濃度は、多くの果実タイプで土壌リン濃度と有意な正の相関が見られた。これらの結果は、低リン環境では花序のリン濃度が低く果実のリン濃度が維持される種が選択されることを示唆している。本発表では、繁殖器官のリン濃度について、群集組成で重み付けした平均値を各森林で計算することで、繁殖器官のリン濃度と群集組成の関係(仮説2)を考察する。


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