| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-P-455  (Poster presentation)

炭素収支から見たマリモの球状集合体維持機構の解析

中島康成(神奈川大学大学院), *小川麻里(安田女子大学), 若菜勇(釧路市教育委員会), 鈴木祥弘(神奈川大学)

北半球高緯度地方に広く分布する淡水棲緑藻類Aegagropila linnaeiは、糸状の藻体(糸状体)からなり、基質に付着した形態、水中に浮遊した形態、集合体などの様々な形態で生活している。中でも北海道阿寒湖では直径が30cm以上に達する球状の集合体(マリモ)を形成することが知られている。風波などの物理的環境要因により、様々な種類の藻類で球状集合体が形成されることがあるが、阿寒湖マリモで巨大な球状集合体が維持されるのは物理的環境要因に加えて、Aegagropila linnaeiが多年生であることが重要であると考えられている。さらに、巨大なマリモで最終的に内部の細胞が枯死し崩壊することを考えると、マリモが大きく成長するまでの期間は、内部の細胞が生き続けることが重要であると考えられる。
養殖されたAegagropila linnaeiから作成された球状コロニーについて内部光環境の測定を行った先行研究で外部からの光が内部にはほとんど届かないことを明らかにしている。この結果からは、マリモの中心部細胞は、光合成を行わずに何年にもわたって生き続けていると推定された。しかし、特別天然記念物に指定されている阿寒湖の天然マリモを用いてその内部を調べた例は少なかった。本研究では、まず、採取許可を得た様々の大きさの天然マリモを用いて内部光環境の測定を行った。その結果、養殖マリモと同様に天然マリモの内部にも光が届いていないことを明らかにした。次に大きさの異なる天然マリモを用いて、光強度と光合成・呼吸速度の関係を求めた。その結果、内部の細胞は光合成を行っている外部の細胞より低い呼吸しか行っていない可能性が示唆された。現在、個々の細胞の光環境への対応を検討するため、糸状体レベルでの光合成・呼吸速度を測定している。これに基づいて炭素収支から見たマリモの球状集合体維持機構を検討する予定である。


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