| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-R-480  (Poster presentation)

東南アジアの連続開花型植物Dillenia suffruticosaの繁殖成功を左右する要因:気象か食害か

*徳本雄史(名古屋大学大学院・生命農学研究科, 基礎生物学研究所), 中川弥智子(名古屋大学大学院・生命農学研究科)

植物が余剰に繁殖器官を形成することは古くから知られており、究極要因として(1)資源リザーブ、(2)繁殖補償、(3)送粉者誘因、(4)雄機能、(5)選択果実の5つの仮説が挙げられてきた。東南アジア地域に生育し、年中開花している連続開花型植物の余剰繁殖器官形成の究極要因は、日射量に対する資源リザーブであることが明らかになっているが、ビワモドキ科の1種のDillenia suffruticosaは、食害者による繁殖器官の脱落が多く、また成熟種子を持たない成熟果実を形成するなどの特異な繁殖特性を持つことが知られており、これらの特性は余剰繁殖器官形成の究極要因が資源リザーブだけではないことを示唆するものである。そこで本研究では同種の繁殖器官を5か月に渡ってモニタリングし、繁殖器官の脱落要因とその変化に及ぼす植物サイズや気象条件などの要因を明らかにすることを目的とした。繁殖器官の脱落傾向と要因は開花前と開花後で異なり、前者は主に気象条件によるアボーションによって、後者は昆虫による食害によって脱落していることが分かった。また開花前の繁殖器官が花になるかどうかは光合成有効放射(Photosynthetically active radiation: PAR)などの気象条件と有意に関係性があり、開花後は同じPARの増加が昆虫害を引き起こす一方で、成熟種子数を増加させることが分かった。これらの結果から、対象樹種の余剰繁殖器官形成の究極要因は、資源リザーブだけでなく繁殖補償であることが示唆された。先行研究の連続開花型植物は食害者に対する化学防御が優れていることが分かっているが、対象樹種は果実内の成熟種子が少なくても生産することで適応度を一定に保っており、連続開花型植物間の繁殖特性の差異が明らかになった。さらに熱帯地域の気象条件は不規則に変化することが知られているが、対象樹種はこの気象条件の変動に対応し、繁殖成功を一定に保っていると考えられる。


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