| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S06-4  (Lecture in Symposium)

生物群集が改変する気候変動影響:アマモ場の海洋酸性化緩和機能に着目して

*仲岡雅裕(北海道大学厚岸臨海実験所), 安孝珍(北海道大学厚岸臨海実験所), 伊藤美菜子(北海道大学大学院環境科学院)

地球規模の気候変動に伴い、海洋では海水中の二酸化炭素分圧の上昇に伴うpHの低下、すなわち海洋酸性化が進行し、サンゴや貝類、甲殻類などの石灰化生物に深刻な負の影響を与えることが懸念されている。海洋酸性化の従来の研究の多くは、pHの低下が石灰化生物に与える負の影響を評価するという一方向的なアプローチであった。しかし、海洋植物、特に維管束植物である海草類では、二酸化炭素分圧の上昇に伴って生産性が向上するという研究例も報告されている。さらに海草類からなるアマモ場では光合成に伴う二酸化炭素吸収により、海洋酸性化の進行を抑制する可能性もある。講演者らは、北海道厚岸湖において、アマモによる海洋酸性化の緩和機能の評価、およびその機能がアマモ場の生物群集の構造と動態に与える影響について研究を進めている。アマモの生産性が高い5月~9月にかけてpHの連続観測を行ったところ、pHはほとんどの期間において8.3以上であり、海洋の平均値 (8.1) より高い値を示した。当初は、アマモが光合成をおこなう昼間にpHが高く、呼吸を行う夜間にpHが低くなるという日周変動を予想したが、実際の観測値では1日を通じてpHは高い状態を保たれることも判明した。以上から、厚岸湖のような半閉鎖海域においては、アマモ場が将来の海洋酸性化を緩和する機能を持っている可能性が示された。厚岸湖にはアサリやカキなどの二枚貝類やホッカイエビなどの甲殻類が多く生息しており、アマモ場によるpHの調整機能は、生物群集全体の構造や動態、さらには、水産有用種の生産性(主要な供給的生態系サービス)にも大きな影響を与えると思われる。今後はpHを操作した室内・野外実験、および生態系モデルを組み合わせた統合的アプローチにより、アマモ場の酸性化緩和機能の量的かつ空間的な評価を進める予定である。


日本生態学会