| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S08-5  (Lecture in Symposium)

オオクチバスの総合的防除

*中井克樹(滋賀県立琵琶湖博物館), 藤本泰文(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)

オオクチバスMicropterus salmoidesは国内各地で深刻な生態的打撃や漁業被害をもたらし、侵略性の極めて高い外来魚として特定外来生物に指定されている。この外来魚による負の影響への対策は、滋賀県琵琶湖で1980年代に始まって以来、漁業の現場を中心に効果的な捕獲のため既存漁法の改良や新手法の検討がなされてきた。近年は電気ショッカーボートが米国から何機も輸入され、琵琶湖や宮城県伊豆沼などいくつもの水域において、選択性の高い捕獲手法として積極的に用いられている。こうした捕獲による生息個体数の低減に加え、個体数の増加を抑えるため、オス親魚が産卵床を形成しメス親魚を誘引して産卵させ卵・仔稚魚を保護するという習性を逆手に取った、効果的な繁殖抑制手法も開発が進められてきた。人工産卵装置はその一例で、伊豆沼で考案された原型となる直置き式だけでなく、軽量・簡易化して汎用性を高めた吊り下げ式など、装置の仕様やその設置方法にもいろいろな工夫が施されている。さらに、ダム湖においては、洪水期に備えて水位を低下させる水域(福島県三春ダム)では、水位低下を階段式に行うことで産卵床の形成を促進してより多くの産卵床を干出させる手法が、水位が安定して維持される水域(岡山県苫田ダム)では、繁殖ポテンシャルの高い沿岸区間を選択し捕獲や繁殖抑制の努力を集中させる手法が、有効な生息抑制対策であることが示されている。こうした対策が行われる水域では、オオクチバスの生息密度が低下するに従って対策の効率も下がることが予想されるため、伊豆沼では、生息密度が低いほど有効性が高まると予測されるフェロモントラップの実用化に向けた野外実験が始まっている。この手法は繁殖期のオスの胆汁でメスの繁殖個体を誘引し捕獲するもので、今後オオクチバス防除対策における〝奥の手〟として期待されている。オオクチバスの生息環境は多様であることから、状況に応じて複数の手法をうまく組み合わせて総合的防除を図る必要がある。


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