| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S10-3  (Lecture in Symposium)

著しい適応放散を示すニューカレドニア産Oxera属植物(シソ科)の保全ゲノミクス

*内山憲太郎(森林総合研究所), 上野真義(森林総合研究所), 成田あゆ(京都大学), Gildas Gâteblé(Institut agronomique néo-calédonien), 陶山佳久(東北大学), 永野惇(龍谷大学), 井鷺裕司(京都大学)

オーストラリアの東1,200kmに位置するニューカレドニア(NC)は、四国程度の面積に3,000種の維管束植物を有する生物多様性の宝庫である。本研究では、NCで著しい適応放散を示すシソ科のOxera属を対象に、発現遺伝子の網羅的解析を行い、種分化に関わる遺伝子の検出を試みた。本属は、NC内で35種以上に分化しており、ほとんどが固有種である。その多様化は著しく、植物体のサイズ(10cmから数m)、生活型(ツル、矮低木、灌木)、花の位置(頂生、幹生、地上生)、花色、花型、生育地の土壌などに及ぶ。系統関係の明らかになっているOxera属4種の葉や花などの組織からRNAを抽出し、次世代シークエンス解析により各種から約4,500万塩基の配列を得た。アセンブルの結果、平均配列長818〜890bpの約7万のコンティグが得られた。これらのうち、種間の塩基多型が認められた約3万の遺伝子に対して、同義置換、非同義置換の比を計算した。遺伝子系統樹のある枝で正の自然選択が働いたかどうかを検定する枝モデルの元で解析した結果、それぞれの種を分ける枝において、計70遺伝子で有意な正の自然選択が検出された。TAIR10データベースに対する相同性検索の結果、これらの遺伝子には金属や硫酸塩などの輸送に関わると予想される遺伝子が複数含まれていた。NCは超塩基性土壌が島内全域に複雑に貫入していることが知られており、本属の種分化に土壌環境に対する適応が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。一方で、島内で広域に分布する1種のddRAD解析の結果、集団間の分化度は高く、集団間の遺伝的交流は限られていることが示された。また、環境情報とのアソシエーション解析からは、様々な環境値に対して相関が認められる遺伝子が検出された。今後さらに情報を加えることで、本属の種分化の理解と保全に関わる知見が蓄積できると考えられる。


日本生態学会