| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T04-1  (Lecture in Workshop)

日本の高山植生の体系化を目指して

*中村幸人(東京農業大学)

 日本の高山植生の体系化は大場(1967,1968,1969)による先駆的な業績によって進められ,その屋台骨は彼の研究によって形づくられた.また,世界的にもカラフトイワスゲ-ヒゲハリスゲクラスの体系化(Ohba 1974)など広域的な研究を世に送り出し,彼の高山研究は世界を視座に捉えた重要なものである.演者は1999年よりサハリンを初めとして,沿海州のシホテアリニ山脈,カムチャツカ半島,中央シベリアから東シベリアを回り,チュコト半島には達していないが,東アジアの高山植生を調査してきた.その比較から日本列島の高山植生の植物社会学的な位置をある程度明らかにできたと思っている.また、日本の高山植生も南アルプスの北岳や北アルプスの白馬岳の精査から再整理を進めている.この企画集会では組成と分布に焦点を当てた地植物学的な視点から高山植生の体系について話題を提供したい.
 東アジアの高山植生は日本の高山植生をベースに体系化が進められているが,森林限界以上に成立する矮性低木群落; Cetrario-Loiseleurietea, 風衝草原; Carici rupestris-Kobresietea bellardii, 崩壊地荒原;  Dicentro-Stellarietea nipponicae, 雪田植生;  Phyllodoco-Harrimanelleteaが代表的な高山植生となる.Cetrario-LoiseleurieteaとCarici rupestris-Kobresietea bellardiiはユーラシア-北米の周北極地方、中緯度高山に広がる.Dicentro-Stellarietea nipponicaeは東アジアから中央アジアに中心がある.一方,Dicentro-Stellarietea nipponicaeは環太平洋の沿海部を中心に分布域を有している.東アジアでは冷温帯から寒帯に連続して分布するが,冷温帯と北方帯の間で分布域の段差がみられる.また、石灰岩、蛇紋岩などの塩基性岩地、火山においては、固有の植生が成立する.日本列島は氷期に高山植生の避難場所として海洋性気候が影響し、間氷期にも組成豊かな植生がわずかな中緯度高山植生域に取り残されている.


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