| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T09-5  (Lecture in Workshop)

富士山:富士山頂に低標高の草本植物が分布を拡大

*増沢武弘(静岡大学防災総合センター)

 富士山頂におけるモニタリングサイトは2010年,2011年に4か所設置された。ここでは植生の記録と地表面、地温の測定を行っている。気温に関しては気象庁の富士山頂測候所データを参考にしている。過去5年間で植生の変化が少しづつ明らかになってきた。富士山頂では今から40年前の記録では、特定な場所を除いて、維管束植物はほとんど分布していなかった。現在はコタヌキラン、イワノガリヤス、イワツメクサの3種が生育している。方形区内の調査結果では、この前者2種ともに個体数の増加が見られた。同時に個体の成長が顕著で、株の拡大とともに、種子生産量も大きいと推定できた。イワツメクサは最近侵入して、2年から3年越冬した個体であり、花芽は形成していなかった。この種は森林限界付近が分布の中心であるが、近年山頂付近に侵入し、花芽を形成し、種子を生産する個体が増加している。今後分布の拡大が予想できる。
 山頂および方形区周辺では、分布の中心が2500m付近のオンタデ、フジハタザオの実生が見られた。これらは種子として、登山者に付着してきたと思われるが、今後注意を要する種である。コケ類に関しては、5年間でミヤマスナゴケ、ヤマスギゴケの分布が拡大していた。それに対して、南極と同じ共存関係が特徴であった、ヤノウエノアカゴケとノストックの黒色のコケ集団は、ほとんど消失してしまっていた。
 本集会では、以上の変化の現象を気温の変化と関連させて説明したい。


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