| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T11-1  (Lecture in Workshop)

生物多様性オフセット実現の社会的条件と合意形成

*吉田正人(筑波大学)

 生物多様性オフセットとは、「回避やミティゲーションを適切に行ってもなお残る生物多様性への重大な負の影響を代償するような計画によって生じる測定可能な保全の成果ことであり、種・生息地・生態系の機能・人間による生物多様性の利用や文化的価値に関してノーネットロス、望ましくはネットゲインを現場で達成するもの(BBOP, 2012)」と定義される。
 世界的には、「ビジネスと生物多様性オフセットプログラム(BBOP)」が、生物多様性の10の原則を定め、ミティゲーション・ヒエラルキーの遵守を第一に掲げているが、わが国では、環境影響評価法基本的事項には、環境保全措置の実施にあたって、「環境への影響を回避し、又は低減することを優先するもの」としながら、「環境保全措置は、事業者により実行可能な範囲において検討される」と事業者の条件を優先している。そのため、十分な回避、低減措置が実施されないままに、安易なミティゲーションが実施される例が多く、市民の環境保全措置への信頼を失わせる状況が続いている。
 生物多様性オフセットが、わが国に受け入れられるにはどのような課題があり、どのような社会的条件を整えなければならないのか、生物多様性オフセットの10原則をもとに検討する。
 原則1.ミティゲーション・ヒエラルキーの遵守:環境影響評価法基本的事項を改訂し、回避・低減が最大限に行われたのかどうかを、客観的に判断する制度の創設が必要であろう。
 原則3.ランドスケープのコンテクスト:生物多様性オフセットが、国レベル、地方レベルの生物多様性の保全・再生の優先事項に合致するようにするため、生物多様性国家戦略、生物多様性地域戦略との連携を深める必要がある。
 原則4、5 ノーネットロス、追加的保全の成果:開発を回避した生息地や新たに創出された生息地が、法的な担保を得られるよう、種の保存法等の関連法制度との連携を深める必要がある。


日本生態学会