| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T11-4  (Lecture in Workshop)

生物多様性オフセットに向けた生態系評価手法の提案

*佐藤保(森林総合研究所), 北岡哲(森林総合研究所), 五十嵐哲也(森林総合研究所), 原口岳(森林総合研究所), 小山明日香(森林総合研究所), 滝久智(森林総合研究所), 長谷川元洋(森林総合研究所四国支所), 岡部貴美子(森林総合研究所)

生物多様性オフセット(開発による生物多様性損失の補償行為)の導入に向けた生態系評価手法の検討を行った。オフセット(損失に対する補償行為)の候補地では、開発による生態系の負の影響を無くすために、追加性(ネットゲイン)を確保する必要がある。この観点からオフセット候補地として、劣化した生態系が適していると考えられた。動植物の群集からオフセット可能な地理的な範囲を検討した結果、島嶼部をオフサイト(開発計画地から離れた場所)とし、地域区分内および隣接県と連携した県単位のオフセットが可能と考えられた。また、開発による損失とオフセットの獲得目標を算定する定量評価法として、オーストラリア等で利用されているハビタットヘクタール法(HH法)の国内での実用性を、既存の生物多様性オフセットの中で課題として残されている生態系サービス一つである炭素蓄積の観点を加えて検討した。立地条件評価の指標の一つである大径木や枯死木量は、生物生息地としてだけでなく炭素蓄積量の評価にも有効であった。またパッチサイズや周辺植生などのランドスケープ評価には、周辺5km程度までの景観要素の解析が妥当であった。これらの結果から、国内のオフセットの獲得目標はHH法によってベンチマーク(参照生態系)として設定することが可能と考えられる。ただし地理的に離れた北海道と九州では植生タイプが異なることなどからも、地域ごとのベンチマークの設定が必要である。炭素蓄積を対象としてこれに考慮した補償行為を想定した場合、開発によって排出(消失)された炭素量をオフセット地での林分成長量による追加分のみで相殺することは困難と考えられた。プロジェクト期間中に開発による炭素排出量分をオフセットするためには、開発された面積以上のオフセット実施と、新規植林などで流域の炭素蓄積増加を図るなどの取組が必要であると考えられる。


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