| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T14-2  (Lecture in Workshop)

繁栄度を決める鍵形質としての種内多様性

*高橋佑磨(千葉大・理), 鈴木紀之(University of California)

個体数や分布の広さなどで測定可能な「繁栄の程度」あるいは「人口学的特徴」が種間や集団間で異なることは疑いようのない事実であるものの、それを説明する手立て生態学にはほとんどない。とは言え、そのような差異が各生物種の経験した進化の歴史や獲得してきた形質に影響されていることは想像に難くない。ここでは、個体群や種の人口学的特徴に大きな影響を与えうる形質を鍵形質と呼ぶことにする。種内の多様性や多型には、種多様性が群集や生態系の生産性や安定性に与える効果と似た効果があると期待される。すなわち、種内のニッチ分化に貢献したり、進化の素材になることで、種や集団の人口学的動態に直接、あるいは間接的に大きな影響を与えうる。本講演では、鍵形質としての種内の多様性に着目し、この形質が種や集団の人口学的特徴に与える影響を概説する。まず、簡単なモデルから、種内多様性の人口学的帰結やその条件依存性についての理論的予測を示す。次に、キイロショウジョウバエを用いて集団内の行動多型の有無と各種個体群パラメータの関連を示した実証研究の結果を示す。この実験では、理論的予測を支持する結果が得られ、種内の多様性が集団の全体のリスク分散やニッチ分割などの型間の補償性を通じて集団の増殖率を高めることやその条件依存性が見出されている。さらに、分布データに基づく種間比較や先行研究の成果をもとに、種内多様性の進化が種の分布域や絶滅リスク、種の存続年数といった短期および長期的人口学的特徴に影響する可能性を示す。以上の結果もとに、種内多様性の進化とその副産物的効果としての個体群動態への波及効果を議論することで、鍵形質の進化という視点から人口学的特徴の種間差や集団間差を解釈することの重要性を議論する。


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