| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T16-3  (Lecture in Workshop)

東南アジア海域における生物学的生態学的に重要な海域の推定

*須藤健二(北海道大学), 内舩芳江(海洋研究開発機構), 山北剛久(海洋研究開発機構), 山本啓之(海洋研究開発機構), 白山義久(海洋研究開発機構), 仲岡雅裕(北海道大学)

 複合的な人為的要因により急速に低下している海洋生物多様性の保全には、海洋保護区等の設定が有効であるとされている。その候補地となる「生物学的・生態学的に重要な海域(EBSA)」の選定にあたり、第9回生物多様性条約締約国会議では7つの基準が示され、それをもとに各海域でのEBSAの選定が進められている。しかし、実際の選定では、専門家の意見による主観的な評価にとどまっている場合が多い。その最大の原因として、海洋生物多様性に関する情報不足が挙げられる。特に、東南アジアの海洋生物多様性は世界で最も高いとされているが、情報不足によりEBSA選定にあたって客観的な評価が行われてこなかった。
 本研究では、東南アジア海域におけるEBSA候補地の客観的な選定を目的として、種分布推定モデルを用いて海洋生物多様性の空間的な情報不足を補完すると共に、EBSAの7基準を定量的に評価した候補地の選定を行った。まず、海洋生物各分類群について、グローバルデータベース(OBISおよびGBIF)および論文等により約140万件の生物分布情報を収集した。次に、情報の不足した海域における海洋生物多様性を推定するため、海草藻場を利用する魚類を対象に、種分布推定モデル(MaxEnt)を用いて東南アジア全域における詳細解像度での分布を推定した。これらをもとにし、EBSAの7基準について3段階のスコアリング評価を行い、各基準の統合解析により、評価対象海域の概ね10%を閾値としてEBSA候補地を選定した。
 分布推定の結果、東南アジアの中でも特に多様性の高い海域として、スルー海からスラウェシ島にかけての海域が評価された。候補地の選定では、基準間でデータ量に差が大きく、総和積算による統合では、データ量が多い海域が評価される傾向があったが、相補性解析では各基準が等価に評価され、複数の基準でスコアの高い海域が選定される傾向が認められた。


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