| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


第10回 日本生態学会大島賞受賞記念講演

伊豆諸島は面白い~捕食者シマヘビと被食者オカダトカゲの個体群動態を追いかけた40年間の野外調査を振り返って~

長谷川 雅美(東邦大学理学部生物学科)

 従来、進化は長い時間で起こる現象だと認識されてきた。しかし、短い時間で起こる迅速な進化が普遍的に起きていることが明らかとなり、個体群や群集、生態系の動態も迅速な進化の影響下にあることが疑いようもなくなった。その結果、生態が進化を駆動し、進化が生態的変化を駆動するフィードバック機構の解明が進化生態学の重要課題となってきた。
 伊豆諸島でオカダトカゲの個体群研究を始めた当時(1977年)、ガラパゴス諸島ではフィンチ類を対象に、自然選択を直に測る研究が進められていた。グラント夫妻の一連の研究にあこがれた私は、オカダトカゲとシマヘビの個体群動態と表現形質を記録する長期研究を構想した。当初、明確な作業仮説を持っていたわけではなかったが、長期データのおかげでシマヘビとオカダトカゲが、ロトカ・ボルテラ式の個体数振動を示すことを見出し、振動の周期や振幅が島によって異なることにも気が付いた。
 シマヘビの色彩パタンは多型的であるが、神津島では全てストライプ型に固定されていた。一方、新島では、ストライプ型と薄いストライプ型、全身茶色の非ストライプ型の頻度が年変動しつつ維持されていた。新島では、トカゲとヘビの個体数振動の周期が神津島より長く、振動の振幅は小さかった。その後、トカゲがヘビの色彩パタンを学習し捕食を回避する仕組みが、ヘビの色彩型頻度を年変化させ、トカゲとヘビの個体群動態にも影響を与えていることがみえてきた。トカゲの変化がシマヘビの選択圧となり、ヘビの変化がトカゲの選択圧となるのである。
 私の長期研究は、オカダトカゲの個体群動態から始まり、生活史の地理的変異、そして捕食者と被食者の共進化動態の解明へと進んできた。1つの理解が次の疑問を生み、また新しい疑問の解明に取り組むというオーソドックスなスタイルである。その一方で、年々の記録を取り続け、一定の長さを経て初めて自然が示すパタンに気づく、ということを繰り返してきた。計画された長期研究というよりも、本土に近くて行きやすく、新しく個性豊かな火山島という伊豆諸島の面白さ、奥深さに魅了され続けた結果である。今後も野外調査を続け、新たな発見を求めていくであろうことに間違いない。


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