| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) A02-01  (Oral presentation)

Deep Convolutional Neural Networkを用いたコウモリ種判別システムの開発と音声モニタリングへの応用

*増田圭佑(大阪大学), 松井孝典(大阪大学), 福井大(東京大学), 町村尚(大阪大学)

 近年,環境モニタリングの指標生物としてコウモリ類が注目されており,彼らの発する超音波音声 (echolocation call) から種を判別する試みが世界中で行われている.我々はこれまで,コウモリ類専用の音声解析ソフトウェアSonoBatを用いて,コールの最大周波数や持続時間をはじめとする75 種類の特徴量を抽出し,Random ForestやSupport Vector Machine等の機械学習法を組み合わせることで判別精度の向上を試みてきた.しかし,コールの特徴が酷似する異種の存在,行動や周辺環境の違いに伴うコールの種内変異,自然環境下の様々なノイズの処理等が課題となっている.そこで本研究では,echolocation callをspectrogram画像に変換し,画像分類問題で性能が高いConvolutional Neural Network (CNN) を用いることで,特徴量を自動抽出し,高精度かつコールの変化やノイズに頑健な種判別法の開発を目指した.
 群馬県みなかみ町赤谷の森で録音された11種のコウモリ類の音声に対し,ResNetベースのCNNをfinetuningした結果,10分割交差検証での評価で平均正答率98.3 % (S.D. 0.9) を達成した.これは,入力のspectrogramが多様であったことや対象種数を考慮すると,先行研究と比較しても高精度かつ頑健に種判別が行えたと言える.
 次に,複数の森林施業試験地 (自然林,帯状伐採試験地,間伐試験地,広葉樹保残試験地) で録音されたコウモリ類の音声を上記の識別器で種判別し,試験地別に各種の出現傾向や活動量を推定した.その結果,自然林ではキクガシラコウモリ属,帯状伐採試験地ではヒナコウモリの活動量が多い傾向を示した.前者は森林内,後者は林縁部や比較的開けた空間を好むため,行動特性と整合する結果が得られた.また,間伐試験地では全種の総活動量が最も低くなったことから,森林施業の方法がコウモリ類の活動量および多様性に影響を与える可能性が示唆された.この推定結果の妥当性からも,本手法の環境モニタリングへの適用可能性が示された.


日本生態学会