| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) A02-05  (Oral presentation)

コウノトリ再導入個体群の社会構造-ペアなわばりと居候-

*桑原里奈, 江崎保男(兵庫県立大学大学院)

 コウノトリは、翼開長が2 mに達する大型鳥類である。極東に分布し、推定個体数は3000に過ぎず、国際自然保護連合によって絶滅危惧に指定されている。かつては、留鳥として全国に生息していたが、1971年に国内繁殖個体群が絶滅した後は、大陸からの渡り鳥として、年に数羽が見られるのみであった。2005年に、兵庫県立コウノトリの郷公園によって再導入が開始され、今年で13年目を迎える。この間に、再導入された個体が野外繁殖し、その個体群サイズは、100を超え、その半数が兵庫県北部の但馬地域に生息している。再導入個体群のほぼ全ての個体は、カラーリングによって、識別が可能である。さらに、一部の個体にはGPS発信機が装着されており、定期的に位置情報が取得可能である。
 この13年間、生態研究も進んだ。コウノトリの社会は、一夫一妻でペアなわばりを持つ繁殖個体と、なわばりを持たない単独個体(フローター)で構成されるが、後者については、未解明の部分が多い。しかも個体群の大半(8割)がフローターである。そのため、コウノトリの社会を理解するには、フローターの理解が不可欠である。フローターについて、周年なわばり内にとどまることを容認された個体「居候」の存在が分っている。居候は、鳥類で盛んに研究されてきた繁殖期のヘルパーと違い、育雛を手伝わない。本研究では、居候の生態を明らかにするべく、その行動を調査した。
 まず、居候は、なわばり内で採餌し、なわばり所有者に攻撃されてもなお、なわばり内にとどまった。また、ヒナのいる巣にとまることもあったが、ヒナへの攻撃は行わなかった。さらに、本研究では、繁殖個体と成熟独身個体の但馬内外での割合比較、フローターから繁殖個体へのなわばりエリア内割合の比較も行った。
 今回の発表では、但馬内外、なわばりエリア内外、なわばり内の3つの空間スケールにおいてコウノトリのフローター、ひいてはコウノトリの社会全体について考察する。


日本生態学会