| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-12  (Oral presentation)

植物における細胞質雄性不稔、雄性回復、自殖の共進化

*山内淳(京都大学)

植物では、雌雄同体の花をつける両性個体とメス機能だけの花をつけるメス個体が集団内で共存する、雌性両全性異株という現象が知られている。その現象は、オス機能の不全を引き起こすミトコンドリア変異によりもたらされている場合があり、これを細胞質雄性不稔CMS: cytoplasmic male sterility)と呼ぶ。ミトコンドリアは胚経由でしか次世代に伝わらないため、個体のオス機能を破壊することでメス機能を若干でも亢進できるならば、CMSをともなう突然変異は集団中に広まることができる。一方、胚と花粉を通じて次世代に伝わる核遺伝子にとってはオス機能の不全は不利益となるため、ミトコンドリアと核遺伝子の間にはゲノム間コンフリクトが生じ、核遺伝子にはCMSを抑制する性質が進化する。こうした性発現をめぐる核とミトコンドリアの共進化において、植物個体の自殖率が大きな影響を与えることが指摘されている。変異体ミトコンドリアを持つメス個体の繁殖には両性個体からの花粉供給が必須なため、自殖に放出花粉量の減少をともなう「花粉減価」が存在し、また集団中の放出花粉量が受粉成功に影響する「花粉制限」が存在する状況では、自殖にはメス個体の受粉を低下させることを通じてCMSの進化を抑制する作用があると考えられる。こうした自殖率の影響について、自殖率をパラメータとしてCMSと抑制能力の共進化を解析した理論研究はあるが、自殖率の進化まで同時に扱った研究はなされていない。そこで本研究では、ミトコンドリアのCMS、核がコードする自殖率および抑制能力の3形質の進化を理論的に解析した。その結果、ある自殖率に対してCMSと抑制能力の共進化が2つの安定平衡状態を持つ場合があること、また自殖率自体も複数の安定平衡状態をとりうることなどが示された。このことから、雌性両全性異株については潜在的に初期値に応じた多様な平衡状態が存在する場合があり、同一種でも集団ごとに異なる状態を示す可能性が示唆された。


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