| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-08  (Oral presentation)

見逃されてきたサルと枯死木の関わり:枯死木を破壊して昆虫を食べるニホンザル

*栗原洋介(京都大学), 大谷洋介(大阪大学), 西川真理(京都大学)

動物は森林生態系のなかでさまざまな相互作用をして生きている。中大型動物は種子散布や植生の改変など生食連鎖において重要な役割を果たすことが知られている一方で、腐食連鎖における役割はよく知られていない。屋久島のニホンザルは枯死木を破壊しその内部に生息する昆虫を食べることが報告されているため、中大型動物と枯死木の関わりを解明するのに最適な調査対象である。しかし、その行動は詳細に調べられていない。本研究は、サルと枯死木の関わりを解明する端緒として、ニホンザルの枯死木破壊行動と昆虫食の季節変化および個体変異を解明することを目的とする。対象は屋久島西部海岸域に生息するニホンザル3群に属するオス・メス成獣である。個体追跡による直接観察を行い、採食時間、品目(植物もしくは動物の種および部位)、単位時間あたりの採食量を記録した。また、サルの食物となった植物・動物を採取し、栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質・繊維)の含有量を測定した。行動圏内に植生トランセクトを設置し、月に1回、対象樹木の結実の有無を記録した。サルは枯死木を破壊し、ゴキブリ・シロアリ・アリ・ムカデなどを採食していた。果実の利用可能性が低く、果実種子採食時間が短いときに枯死木破壊行動に費やす時間が長くなった。また、高齢になるほど低順位ほど、枯死木破壊行動に費やす時間が長かった。枯死木破壊行動によって得られる昆虫は、採食重量のわりにエネルギー・タンパク質摂取への貢献が大きかった。サルは果実種子の少ない時期にエネルギー・タンパク源として枯死木依存性昆虫を利用していることがわかった。枯死木は林床に多く、分散して分布するため、低順位個体にとっては高順位個体から離れて採食可能な場所であり、高齢個体にとってはアクセスが容易な採食場所であったと考えられる。


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