| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-02  (Oral presentation)

種特異的なフェロモン選好性の進化をもたらす神経基盤

*石川由希(名古屋大学, 東北大学), 前田直希(名古屋大学), 野村岳民(名古屋大学), 上川内あづさ(名古屋大学), 山元大輔(東北大学)

動物は同種と異種とを識別し、同種と選択的に交配する。この配偶者選好性は種分化に伴って迅速に進化するが、どのような神経機構の変化がこの進化を実現しているのかは未解明である。姉妹種であるキイロショウジョウバエ(キイロ)とオナジショウジョウバエ(オナジ)はフェロモンによってお互いを識別し、同種と交配する。特にキイロ♀に特異的なフェロモン7,11-heptacosadiene(7,11-HD)はキイロ♂の求愛を促進する一方、オナジ♂の求愛を劇的に抑制する。これまでの研究で、キイロのような正の7,11-HD選好性が祖先的であり、オナジはこの選好性を二次的に逆転させたことが示唆された。では、この選好性の進化はどのような神経機構により実現されたのだろうか?
キイロとオナジの雑種♂は、オナジと類似した負の7,11-HD選好性を示す。そこで本研究では、遺伝学的ツールの整備されていないオナジのモデルとしてこの雑種を用い、キイロで開発された豊富なツールを用いた比較解析を行った。まず私たちはキイロ♂の7,11HD選好性に寄与するppk23-P1神経回路に着目した。回路を構成するニューロンの機能比較により、キイロと雑種のppk23-P1神経回路の構造には違いがあることが推察された。さらに神経接続の可視化により、求愛を促進する経路の接続が雑種において失われていることが示唆された。さらに遺伝学的ツールを用いたスクリーニングにより、雑種♂における負の7,11-HD選好性に関与する候補化学感覚ニューロンを新たに同定した。神経接続の可視化により、このニューロンは雑種ではppk23-P1神経回路の求愛抑制経路と接続しているが、キイロでは接続していないことが示唆された。これらのことから、7,11-HD選好性の正から負への逆転には少なくとも2つの神経接続の変化が寄与している可能性が示された。


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