| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-01  (Oral presentation)

植物概日時計の適応的な環境同調を可能にする分子メカニズム

*大原隆之(北大院・環境科学, 九大・理学), 佐竹暁子(九大・理学)

植物は、昼夜または季節に伴う光環境の変化に直接曝される。植物が昼夜を問わずに成長を続けるためには、光環境の変化に適切に応答して、昼に同化される炭水化物の代謝を行う必要がある。我々はこれまで、数理モデルを用いた分析により、生物の内的なペースメーカーである概日時計が、炭水化物代謝に重要な役割を果たすことを報告してきた。数理モデルでは、昼間に蓄えられたデンプンの分解を概日時計が制御し、一方でデンプン分解により生じるショ糖が概日時計の針の位置(位相)を調節する、と仮定する。このフィードバックを捉えたモデルにより、ショ糖シグナルに応答して概日時計の位相が朝に前進することが、植物がショ糖ホメオスタシスを達成し、光のない夜にも継続して成長できる鍵となることを示した。この予測は実証研究によっても支持された。一方で、ショ糖シグナルのターゲットとなり得る時計遺伝子は何か、またシグナルはその遺伝子に対して促進と抑制のどちらの効果を持ち得るのかについてはほとんどわかっていない。
本研究では、植物概日時計の遺伝子ネットワークモデルを拡張することで、ショ糖シグナルに応答する候補遺伝子を絞り込んだ。ショ糖による遺伝子制御として考えられる可能性を全て定式化し、朝に位相前進が見られるような制御条件を調べた。その結果、朝から昼にかけて発現のピークを迎えるPSEUDO-RESPONSE REGULATOR9(PRR9)とPRR7がショ糖により抑制される、または夜に発現のピークを迎えるEARLY FLOWERING4LUX ARRHYTHMOが促進されると仮定した場合に、朝の間に位相が前進する、という応答特性が実現されることがわかった。最後に、PRR7が成長調節因子のリプレッサーとして働くという実験事実に注目し、ショ糖がPRR7を抑制することが、炭素資源の成長への効率的な投資に適したものであることを議論する。


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