| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-08  (Oral presentation)

花をいつ咲かせるべきか?送粉者を集める戦略・避らせる戦略

*久保美貴, 井田崇(奈良女子大学理学部)

植物は他個体との花粉の授受に送粉者が必要である。送粉者は花蜜や花粉を採餌しに訪花するため、花蜜分泌の主な役割は送粉者の誘引だと考えられていた。しかし近年、行動操作(特に個体からの早期の立ち去り)が注目されている。送粉者が訪花すると潜在的な送受粉機会を高めるが、同時に自殖の機会も増加させる。故に、花蜜の“誘引”と“行動操作”の相対的な重要性は、個花が置かれている交配環境ごとに変わると予想される。群集内の個体や個体内の個花の開花状況に応じて交配環境が時間的に変化するため、本研究は個花における花蜜の効果が変わり、それを反映した花蜜分泌や開花形質が実現されているかを検証することを目的とした。キンポウゲ科ヤマオダマキは、複数の花を持ち、送粉をマルハナバチに依存している。この植物を用いて開花フェノロジーに応じた花蜜の役割、及び繁殖成功の変異を評価した。個体群内で開花の早い個体において、個体内で前半に咲く花ほど花蜜量が多く糖濃度が低い傾向があった。一方、開花の遅い個体ではそのような変異はみられなかった。さらに、個体群内での開花時期に関わらず、個体内で後半に咲く花ほど結果率が低かった。これらの結果は、開花の早い個体では花蜜生産の量と質を個体内で時間的に変化させることを示している。開花量の少ない開花初期には送粉者の十分な訪問が得られず、花蜜量の増加により採餌に時間をかけて花の存在を学習させることで、誘引を促している。また、長時間の花滞在により、送粉者不足による受粉量の制限を補償しているかもしれない。季節の経過とともに送粉者が増えると、濃度の高い花蜜を分泌することにより早期の立ち去りを促し、他殖による質の高い種子生産を行うのではないだろうか。本研究は、植物は花蜜の分泌様式を能動的に変化させることで送粉者の行動を巧みにコントロールし、繁殖成功を高めていることを示唆している。


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