| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) J02-07  (Oral presentation)

「行動」と「生態」をつなぐ:長期昆虫群集動態の時系列解析

*川津一隆(龍谷大・理工), 近藤倫生(龍谷大・理工), 潮雅之(京大・生態研センター), Van Veen, Frank(University of Exeter)

野外に出れば,生き物が食う−食われる,助け合うなど多様な行動でやり取りしている様子が見つかるだろう.その多くは印象的で,現代の生態学はこれらの「観察」できる個体レベルの現象が群集動態を直接駆動していると信じて進展してきた.しかしながら,この種間相互作用論を自然生態系で実証した研究は驚くほど少ない.その理由は,相互作用研究にまつわる以下の三つの呪いによる.まず観測の困難さ:個体群レベルの相互作用は個体レベルの行動の無数の集合である.次に解析の困難さ:相互作用に内在する状況依存性が動態への波及を複雑にする.最後に操作の困難さ:種間の関係性にどう手を加えれば良いのか?
我々はこの問題を解くために,英国Silwoodの草地に成立したアブラムシ−寄生蜂−高次寄生蜂の三栄養段階からなる昆虫群集に着目した.この系は個体レベルの寄生−被寄生関係の同定が容易であるという特徴を持つ.そこで,10年間にわたる月ごとの観測から得られた寄生関係の多種時系列に対して,個体群レベルの相互作用を定量可能な非線形時系列解析を行ったところ以下の結果が得られた.1)個体レベルの寄生関係と個体群レベルの因果関係の在・不在が種ペア間でよく一致する,2)寄生関係が頻繁なペアほど因果関係が検出されやすい,3)個体レベル・個体群レベルの間で相互作用の強さに正の相関が見られる,4)寄生関係が観察されないペアでも個体群レベルでは強い効果が生じる場合がある.
以上の結果は,確かに個体レベルの現象が個体群レベルの効果にスケールアップしており,種間相互作用に基づく生態学理論が砂上の楼閣ではないことを示している.それだけでなく,個体レベルでは見えない種間相互作用もまた群集動態に重要な役割を果たしていることも示唆している.


日本生態学会