| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) J02-08  (Oral presentation)

脊椎動物および節足動物による動物遺体の利用実態-ハエ幼虫は浄化装置?

*橋詰茜, 青木俊汰郎, 山中康如, 中島啓裕(日本大学)

どんな動物にも寿命がある.死んだ動物,すなわち動物遺体は,捕食者に対して抵抗しないこと,窒素やリンが大量かつバランスよく含まれていることから,多くの生物にとって極めて貴重な資源である.近年の研究によれば,動物遺体の大半は食肉目などの脊椎動物によって利用される.高次捕食者による遺体利用は,通常の捕食―被食関係を緩和するため,群集の安定化に寄与することが理論的な研究によって確かめられている.しかし,(夏季のような)高温環境下では,微生物や昆虫の活動が活発になるため,遺体利用者間の競争が激しくなり,高次捕食者による遺体利用の頻度は下がると考えられる.そこで本研究では,北海道八雲町日本大学演習林に,有害駆除されたアライグマの遺体を一頭ずつ実験的に設置し,無脊椎動物(特に鞘翅目)・脊椎動物を含む遺体利用者とその時間変化,さらにそれらの生物間相互作用を明らかにすることにした.フィールド調査は,2017年8月16日から9月11日にかけて行った.遺体の主な利用者は,ヒロズキンバエ及びホホグロオビキンバエの幼虫(以下,ウジ)であった.ウジは,設置2日後に孵化し始めた.その後,6日から8日後には蛹になるために一斉に遺体の外へ分散した.分散と同時期に,遺体の重量は急激に減少し,9日後には30%以下となった.無脊椎動物の種構成は,分散のタイミングを境に大きく変化した.脊椎動物のうち,哺乳類はキツネ,タヌキ,齧歯目,鳥類はアカハラを含む8種が遺体を訪問し,どの種においてもウジの利用が確認された.このうち,遺体自体を利用したのは,キツネとタヌキのみであった.本研究の結果から,遺体のエネルギーや栄養は大分部がウジに摂り込まれていたことが分かった.さらに,ウジが様々な無脊椎動物・脊椎動物に捕食されていたことから,遺体のエネルギーや栄養はウジを通じて高次捕食者に流れ,群集の安定化に寄与しうることが分かった.


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