| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) J02-09  (Oral presentation)

群集生態学の限界とデータ駆動型アプローチによる解決

*近藤倫生(龍谷大), 川津一隆(龍谷大), 長田穣(地球研), 京極大助(龍谷大), 潮雅之(京都大・生態研)

群集生態学は種間相互作用を中心に構築されている。種間相互作用とは、ある生物種の個体群密度の変化が他の生物種の個体群密度変動に影響する、個体群レベルの相互作用だ。種間相互作用がどのように複数種間を伝播し、個体群動態を駆動し、群集構造を形作るかについて多くの理論研究がある。そして、これら種間相互作用研究の一つの到達点として、多種・多相互作用系の構造と動態を結びつけようとする群集ネットワーク研究が成立した。
種間相互作用研究は、しかし、行き詰まっているように思える。最大の問題は、自然群集における種間相互作用の様相がほとんど把握されていないということだ。捕食-被食・競争・相利関係といった行動レベルの関係に基づく推測は可能だが、個体群レベルの相互作用を検出する操作実験には極めて手間がかかるためである。その結果として、Mayの複雑性-安定性関係に関する理論研究に発する、群集ネットワークの構造-動態研究は、その理論予測のほとんどがフォーマルなテストもないまま放置されている。さらに、群集生態学は、群集動態の予測や制御などといった具体的な問題に対して必ずしも有効な手立てを提案できていない。
本講演では、群集生態学の新しい展開として、時系列データのみに基づくデータ駆動型研究=ミニマリストアプローチを紹介する。個体数変動データは種間相互作用や安定性に関わる情報を含んでいる。適切な解析手法を利用することで、これらのデータのみから群集構造や動態、さらにはその間の関係を評価することが可能になる。さらには、これまで決して容易ではなかった変動予測も群集生態学の射程に入ってくる。昆虫を用いた室内競争実験系やプランクトン・海洋の魚類・草原の昆虫群集などを対象に進められている複数の具体的研究例を紹介しつつ、このアプローチの可能性、将来への展開について議論したい。


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