| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-054  (Poster presentation)

東アジア産バテイラ科貝類の分子系統解析:同一系統内に生じる対照的な殻形態

*山崎大志(東北大院・生命), 平野尚浩(東北大・東北アジア), 三浦収(高知大・農林海洋科学), 千葉聡(東北大院・生命, 東北大・東北アジア)

進化生物学において表現型の地理的分化機構とその遺伝的背景の解明は重要な主題の一つである。日本沿岸域は様々な環境を内包し、変化に富む海岸線はその環境に複雑な勾配を与える。本地域では海産無脊椎動物が多様なハビタットに生息・適応しており、また種内・種間で形態変化を示すグループが多い。特に巻貝には広域分布を示す種群が知られ、その域内で殻形態に地理的な変異を生じる場合もある。このような特徴を示す貝類種群は表現型の進化史を解明する上で有用な材料である。東アジア地域に広く分布するバテイラ科貝類は殻表面に対照的な2つの形態型(平滑型・縦肋型)が知られ、2型が種内でみられる場合もある。また平滑な殻形態を示すクマノコガイには色彩においても2型(黒色型・褐色型)が観察された。この形態変異には地理的パターンが知られる場合もあるが、詳細な進化史は明らかではない。演者らは日本沿岸を中心に分布域内で調査を行い、殻形態の地理的パターンを検証した。また採集地点における波当たり強度を算出し、殻形態との関連性を推定した。加えて形態変異と遺伝的分化との関係を明らかにするため分子系統解析を行った。

平滑型・縦肋型が種内でみられる3種は主として異所的に2型が分布していたが、その殻形態に波当たり強度との関係性はみられなかった。分子系統解析の結果、上記の3種にみられる2型はそれぞれ遺伝的に区別できなかった。また別種とされてきた黒色型のクマノコガイ(平滑型)・ヤマタカクボガイ(縦肋型)も遺伝的に区別できなかった。一方でクマノコガイの色彩2型は単系統となったが系統を異にした。この色彩2型では生息地の波当たり強度に有意な差がみられ、褐色型のクマノコガイは波当たりの弱い環境に生息していた。以上より本科貝類の地理的な殻表面の形態変異パターンは遺伝的分化を伴わず生じている一方、生息地嗜好性の違いは種分化に寄与する可能性が示唆された。


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