| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-107  (Poster presentation)

線虫はどのようにして共食いを避けているのか?

*浴野泰甫(鹿児島大学, 佐賀大学), 吉賀豊司(鹿児島大学, 佐賀大学), 竹内祐子(京都大学), 神崎菜摘(森林総研関西支所)

共食いは多くの動物分類群において観察される現象である。一方で、視覚および嗅覚による同種認識を基盤とし共食いを回避していることが、様々な動物種において明らかになっている。では、視覚器官を持たず単純なボディプランの線形動物門(=線虫)ではどうだろうか。線虫にはフェロモンや、双器とよばれる嗅覚器官が存在することが知られているが、線虫捕食性線虫が餌線虫と同種他個体を区別できているのか、また、そもそも共食いを回避しているのかもほとんどわかっていない。今回演者らが注目したSeinura sp.は、注射針状の「口針」とよばれる摂食器官を持ち、サシガメなどの捕食性節足動物同様、被食者に消化液を注入し、体外消化した内容物を吸汁するという捕食行動をとる。本研究ではSeinura sp. において共食い回避が生じていることを示し、さらにその機構を明らかにすることを目的とした。培地上で捕食行動観察を行ったところ、Seinura sp.は糸状菌食性線虫に対して高い捕食率を示す一方、同種および別種の線虫捕食種とはほとんど食い合いをしなかった。また、Seinura sp.およびその近縁種群において、塩基配列情報から系統的位置を明らかにするとともに、透過型電子顕微鏡を用いて線虫虫体を覆うクチクラ層の微細構造の観察を行った。その結果、Seinura sp.は糸状菌食性線虫を起源とする系統群に位置しており、微細構造においては、その起源となる糸状菌食線虫とクチクラ基本構造は共通しているものの、クチクラ最外層が約10倍に肥厚していることが明らかになった。以上のことから、Seinura sp.は共食いを回避しており、肥厚したクチクラ最外層が捕食回避のための物理的防御機構であることが示唆された。


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