| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-108  (Poster presentation)

琵琶湖水系に陸封されたアユの安定同位体比からわかること〜異なる時間スケールの食性を示す複数組織を組み合わせて〜

*沢田隼(龍谷大・院・理工), 藤原壮平(龍谷大・理工), 遊磨正秀(龍谷大・理工), 丸山敦(龍谷大・理工)

 安定同位体分析は動物の食性や食物網構造、移動生態を解明するツールとして幅広く利用されている。近年、置換速度の異なる組織を利用した同位体分析が、季節的な食性変化や移動生態を明らかにする手法として注目されている。本研究では、生活史変異に富む琵琶湖のアユを対象に、複数組織を利用した同位体分析により各型を識別し、各型の産卵までの降下・遡上生態の解明を試みた。なお、餌生物の炭素・窒素同位体比(δ13C・δ15N)の琵琶湖と河川の間の差異や、河川流程に伴う変異を活かせば、成長の場を詳細に識別できる可能性がある。
 琵琶湖に流入する姉川の河口から21 km以内の範囲に9地点を設置し、2017年6月から11月にかけてアユの成魚を採取した。採取した成魚から筋肉、粘液、卵巣または精巣を摘出し、同位体分析に供した。一般線型モデル(GLM)とAICによる段階的モデル選択を用いて、各組織のδ13C・δ15Nを説明する要因を求めた。
 AICが最小のGLMにおいて、筋肉と精巣のδ15Nは体長・河口からの距離・採取日、粘液のδ15Nは体長・河口からの距離、卵巣のδ15Nは体長・採取日により負の影響を受けた。筋肉のδ13Cは体長・河口からの距離・採取日、粘液のδ13Cは体長・河口からの距離、精巣のδ13Cは河口からの距離により正の影響を受けた。
 遡上時期の早い個体ほど体長が大きくなることが知られており、体長増加に伴う全組織のδ15Nの下降は生活史変異により説明できる。体長とともに筋肉と粘液のδ13Cは上昇したのに対し、卵巣と精巣のδ13Cには体長との関係がみられなかったのは、成長と性成熟の場が異なることを示唆する。また、産卵場で採取されたアユの筋肉のδ15Nや体長と採取時期の関係から、産卵期序盤に夏・秋遡上群、中盤に春・夏・秋遡上群、終盤に秋遡上群が産卵場に集まる傾向が見られた。今後卵巣や精巣の置換速度が求まれば、性成熟の時期や場所を明らかにでき、アユの降下・遡上生態の解明に貢献できると考えられる。


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