| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-158  (Poster presentation)

密度‐面積関係を生じるメカニズムはなにか?:渓流の落葉破砕食昆虫における種、齢間の比較

*永田広大(東大・農), 加賀谷隆(東大・農), 天野浩美(建設環境研究所)

 動物種の生息場パッチにおける密度とパッチ面積との関係(密度‐面積関係、DAR)は、出生、死亡、移出入を介した様々な機構により形成されうる。異なる環境における動物種のDARを予測するためには、その形成機構を理解することが不可欠である。渓流の落葉破砕食昆虫は、落葉枝が堆積した大小様々なリターパッチに生息する。本研究は、落葉破砕食昆虫のうち、野外渓流において負のDARを示したヤマガタトビイロトビケラの幼虫(以下ヤマガタ)と、正のDARを示したコカクツツトビケラ種群の若齢幼虫、終齢幼虫(以下コカクツツ若齢、終齢)のそれぞれについて、DAR形成機構を明らかにすることを目的とする。野外調査と室内実験によりDARを形成しうる機構をいくつか検討した結果、以下の点が明らかとなった;①パッチに堆積した落葉の栄養価(C:N比)は、パッチ面積と正や負の関係を示さなかった。②いずれの種も、潜在的捕食圧が大面積パッチほど高い肉食性のムラサキトビケラに対し、捕食または回避による負の密度応答を示した。③コカクツツ若齢はパッチ底層を集中利用したのに対し、終齢は三次元構造のパッチを遍く利用したことから、大面積パッチほど利用可能な部位の量が多いといえる。④コカクツツ若齢は、終齢よりもパッチ内での拡散速度が低く、モデル解析により野外のパッチ面積範囲において正のDARを形成しうると推定された。
 以上より、ヤマガタではムラサキトビケラによる捕食リスクが、コカクツツ若齢ではパッチ内の移動様式が、コカクツツ終齢では利用可能な部位の量が、それぞれ正または負のDAR形成に貢献しうるといえる。ヤマガタでは、ムラサキトビケラの在不在に応じて生息地によりDARが異なりうるのに対し、種固有の特性がDAR形成に貢献すると考えられるコカクツツでは、生息地、出現季節、発育段階に関わらず正のDARが形成されやすいと予測される。


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