| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-204  (Poster presentation)

石狩湾沿岸林内におけるキタホウネンエビ個体群の維持

*濱崎眞克, 野田隆史(北海道大学環境科学院)

 変動するパッチで生物がメタ個体群を形成する場合、その生物の保全には、メタ個体群全体を包含する範囲でのパッチ占有率の動態、そして繁殖成功度の時空間変動の解明が重要である。
 キタホウネンエビは日本の北海道と青森県でのみ確認されている大型陸水性動物プランクトンの一種である。石狩湾沿岸林内に点在する湿地において、本種は春季に上昇する不圧地下水によって形成される融雪プールで繁殖を行い、夏季から冬季にかけては耐久卵で休眠を行う。
 本研究においては、融雪プールの形成頻度、移入の影響の大きさ、そして繁殖成功度から中長期的な個体群成長率を推算し、石狩湾沿岸における本種のメタ個体群の維持機構を解明して保全の要点を抑える事を目的とする。
 本種の耐久卵の孵化の必要条件の一つが生息地の冠水である。三分割された観察地域のうち、中央部は不圧地下水位の経年観測が1982年から行われている。この水位データと東部4地点、西部2地点の実測水位を対比した処、全地点で直線近似が可能であった。
 また、局所個体群維持に移入による影響が大ならば、孤立度と局所個体群の利用率に有意な関係があると考えられるので、その比較も行った結果、移入の影響は小さいとの結果が得られた。
 繁殖成功度は産卵密度と産卵期の水面面積の積から求めた推定孵化数を孵化期の生息密度と当時の水量の積から求めた推定孵化数で割って求めた。
 似た生活史を持つ別種の先行研究に基づいた孵化率調査と、繁殖成功度、そしてトリパンブルーを用いた未孵化卵の生存率の調査から、冠水渇水状況各種の局所個体群増加率を推算し、冠水渇水のデータと統合する事で、その相乗平均を算出した結果、観察対象地点は全てで1を超えた数字が得られた。
 従って、中長期的には孵化数を上回る耐久卵が生産され続けており、此等がコア個体群である可能性が高く、コア個体群の位置把握と環境維持が本種の保全に重要であると考えられる。


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