| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-227  (Poster presentation)

アカテガニ類幼生期の回帰・着底要因

*村上隆也(石川県立大学大学院), 柳井清治(石川県立大学)

 石川県金沢市を流れる犀川の河口部には,普正寺の森と呼ばれる約47haの広葉樹林が残されており,アカテガニChiromantes haematocheir ,クロベンケイガニChiromantes dehaani ,ベンケイガニSesarmops intermediumの3種(これら3種を以下,アカテガニ類とする)が生息する豊かな生態系が存在する.しかし現在,治水目的による河道の拡幅工事のため,この森の一部を切り取る計画が進んでおり,その影響が懸念されている.拡幅工事によるアカテガニ類への影響を検討する上で,そのメガロパ期から稚ガニ期にかけての着底・生息環境を明らかにすることが必要である.そこで本研究では,これらを明らかにするための野外調査と室内選択実験を行った.野外調査は犀川最下流部の左岸において,人工の底質を用いたメガロパの着底量調査,及び河岸付近の底質環境別の稚ガニの個体数密度調査を行った.室内選択実験は,クロベンケイガニの抱卵個体から得た幼生を飼育し,稚ガニへと成長したものを用い行った.3種類の底質を入れた容器内に稚ガニを一定時間放置し,底質の選択性を調べた.
 調査の結果,アカテガニ類メガロパは着底する底質を選択していることが明らかとなった.メガロパの着底量は,着底後の個体が隠れることのできる隙間を有する底質で多い傾向が見られた.稚ガニの生息場選択においても,底質環境が影響を与えており,河岸付近の植物群落が生息場として多く利用されていた.また,植物群落を構成する種及びその状態によって,稚ガニの選択性が異なる可能性が示唆された.稚ガニ期の生息場選択に及ぼす底質環境の影響は,クロベンケイガニの稚ガニを用いた室内選択実験においても観察され,植物群落が重要な生息場として選択された.これらのことから,河岸付近の植物群落はメガロパ期の着底場所,及び稚ガニ期の生息場として利用される重要な環境であり,拡幅工事を行うにあたっては,慎重な取り扱いと保全を行うことの重要性が示された.


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