| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-246  (Poster presentation)

人工知能によるコケマップの完成を目指して〜苔庭管理のための画像認識モデルの提案〜

*皆川まり, 伊勢武史, 大西信徳(京都大学)

コケは日本の庭園文化の重要な要素の一つである。日本庭園には複数種のコケが存在することが知られているが、その調査には多大な時間と労力を要するため、庭園内のコケの分布に関する理解は十分に進んでいない。このため、近年著しく技術が発展している深層学習をコケに適用できれば、種識別にかかる時間と労力を削減することができると考えられるが、植物は、動物などと比較して可塑性が高く形状が不定形であることから、機械学習の対象としては不向きであると考えられてきた。特にコケはマット状に密生するものが多いため、個体の判別が難しく、学習用教師画像の生成が困難であった。そこで、本研究では、学習用教師画像を作成する際に、対象とする種のコケのデジタル画像を数十ピクセル四方の細かな正方形に分割するchopped picture methodを用いることで、個体を識別することなく大量の学習用教師画像を作成することとした。本研究では、深層学習により広範囲においてコケの種を判別する画像識別モデルを開発することを目的とした。
対象地は京都市左京区の無鄰菴庭園内である。本研究では、光環境の異なる4つのプロットを設定した。学習用教師画像は、判別対象の8種のデジタル画像を撮影してchopped picture methodにより作成した。さらに広範囲のコケを一度に判別するため、各プロット数十枚の写真を撮影して単一の画像に合成したオルソ画像をテスト用画像とした。学習用教師画像から深層学習によりコケの画像識別モデルを作成し、テストと評価を行った。
作成された画像識別モデルは、十分に高い精度でコケの種の自動判別を行うことができた。これにより、苔庭の種ごとの面積率や時間変化などを効率的・定量的に測定することが可能となるため、気候変化や庭園管理行動がコケ群集に与える影響の調査や、庭師の持つ苔庭管理についての暗黙知を定量化し、コケの知識に乏しい人達でも苔庭管理を行うことができるなどの応用が期待できる。


日本生態学会