| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-266  (Poster presentation)

再開発ダム完成前後のダム下流生態系における食物網・物質循環の比較

*菊地亮太(弘前大・院・農生), 東信行(弘前大・農生)

青森県を流れる岩木川の上流域では、1960年から約半世紀の間、目屋ダムが運用されてきたが、2016年にダムが切り替わり、新たに津軽ダムが運用を開始した。津軽ダムには、ダム直上の河川水を、ダム湖を経由せずに下流に流すことが出来る清水バイパスが搭載された。さらに目屋ダムでは放水地点がダム湖下流4.5kmに位置していたのに対し、津軽ダムではダム堤体からの放水が可能となった。目屋ダム運用時のダム下流の水中の物質循環として、ダム直下では湖内生産の植物プランクトンによる影響を大きく受け、下流にいくに従って、その影響が緩和される傾向があることが分かっている。今回、津軽ダムに清水バイパスが設置され、放水地点も移動したことで、目屋ダム運用時とは河川の応答が変化することが予測される。しかし、このような再開発ダムに切り替えられたインパクトに対する河川の応答に関する報告は極めて少ない。そこで、本研究では、目屋ダム運用時(2014, 2015 )と津軽ダム運用時(2016, 2017)での、河川生態系物質循環を比較することで、ダム再開発に対する河川の応答を評価した。分析には炭素・窒素安定同位体比分析を用いた。ダム上・下流に生息する魚類・底生無脊椎動物・微細有機物(FPOM)・付着藻類を対象に分析することで、河川生態系物質循環の全体像を把握することに努めた。
 炭素安定同位体比(以下δ13C)において、目屋ダム運用時は、ダム直下で値が急激に減少していたが、ダム切り替わり後、その減少幅が小さくなる等の結果が得られた。ただし、2017年度おいて、清水バイパスが使われていない期間は、δ13Cの値が再び減少する傾向がみられた。すなわち、清水バイパスにより、ダム湖水が下流河川に与える影響が軽減されると考えられる。


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