| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-273  (Poster presentation)

窒素循環に関わる微生物の土壌中存在量および群集構造の変化 Changes in the abundance and community structures of soil microbes associated with nitrogen cycle

*藤田卓(九州大・理・生物), 韓慶民(国立森林総合研究所), 濱村奈津子(九州大・理・生物), 佐竹暁子(九州大・理・生物)

生物にとって窒素はタンパク質や核酸の原料となる重要な栄養であり、森林生態系では主にリターの分解によって生じる硝酸態窒素として植物へ供給される。植物の成長や繁殖は土壌から得られる利用可能な窒素量に大きく影響を受けるため、硝酸態窒素の供給に関わる微生物の働きを明らかにすることは森林生態系の生産力を見積もるためにも重要である。硝化の律速となるアンモニア酸化反応は、アンモニア酸化酵素を持つアンモニア酸化細菌(AOB)、アンモニア酸化古細菌(AOA)によって行われる。硝化に関わる微生物の存在量と硝化の関連性は近年少しずつ明らかとなってきているが、微生物の存在量を長期間野外で観測した研究例は少ないため、微生物量の季節および年変化の様式はほとんどわかっていない。そこで本研究は硝化に関わる土壌微生物動態の解明を目的とし、その季節変化と年変化パターンを明らかにし環境の異なる調査地間で比較した。
市街地に近く斜度の小さい北海道羊ケ丘の樹木園と山岳地形のブナ天然林である新潟県苗場山において2015~2016年にかけて月毎に採取された土壌サンプルからDNA抽出を行い、定量PCRによってAOBとAOAの存在量を定量した。微生物存在量の季節変化と年変化を、土壌中の窒素量、降水量、温度、pHデータと合わせて分析し、2調査地間で比較した。
2調査地の両方において、AOAの存在量がAOBより高く、土壌中窒素量に見られた夏にピークをもつ季節変化と年変動は微生物量には確認できなかった。
2調査地は、降水量、温度、pH、リター供給量が異なるにもかかわらず、微生物動態には大きな変化がみられなかった。一方、苗場調査地ではどちらの微生物量にも地点間で大きな差がみられ、それは羊ヶ丘と苗場間での相違よりも大きかった。
これらの結果は、微生物群集を決定づける要因として、標高差や斜面の有無など複雑な地形の存在が温度や降水量の違いよりも重要である可能性を示唆するものである。


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