| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-274  (Poster presentation)

窒素循環を指標とした里山評価

*井田勇也(新潟大学・自然研), 本間航介(新潟大学・農)

里山は森林、農地、河川などの複合体として機能している。しかし複合景観である里山を単位とした窒素循環研究は未だなされていない。
里山における窒素循環を指標とし、新たな里山評価手法を確立させた。農地や森林、草原といった単一の景観での窒素循環研究は多く存在するものの、里山のような農地・森林を中心とした複合景観での窒素循環研究はこれまでほとんどされてこなかった。また、人為的要因を里山評価に組み込むことができる点も本手法の特徴である。
調査は佐渡島の南部に位置する岩首集落で行い、居住区の含まれない標高約250m~約400mの棚田を中心とした流域を研究対象地とした。窒素収支を算出するにあたり、サンプリングと分析、聞き取り調査という二つの現場調査を行った。これらの調査結果と、窒素含有率などの文献の引用値から窒素収支を算出した。本手法の窒素収支では、窒素の総インプットと総アウトプットが等しくなると仮定して収支を算出している。
窒素収支結果は以下の通りである。インプットは河川流入が13%、大気沈着が33%、肥料が54%であった。アウトプットは河川流出が48.6%、収穫物が44%、作物残渣が5%、大気放出が2.4%であった。総負荷量は982.7kgN/㎢・yearである。内部で循環するものは稲わらの漉き込みと、籾殻の保湿剤としての農地への散布である。内部循環の稲わらと籾殻の負荷量は332.7kgN、籾殻は14.5kgNであった。肥料はインプット総量の約半分を占め、人為的要因による窒素負荷が多いことがわかる。また河川流出も48.4%を占めているが、今回はTN(全窒素)のみの計測から収支を算出したため、この流出成分が肥料由来の影響によるものかは明らかではない。
本研究結果では、流出成分が何に依存するか、森林が水田へもたらす窒素量などが明らかでない。今後はイオンクロマトグラフィーを用いた詳細な水質分析、森林・水田の土壌分析など詳細な項目を測定し、里山評価指標としての確立を目指す。


日本生態学会