| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-285  (Poster presentation)

冷温帯シバ草原における7年間の温暖化実験 ―植物および土壌圏の応答性―

*墨野倉伸彦(早稲田大・院・先進), 増田信悟(早稲田大・院・先進), 鈴木真祐子(早稲田大・院・先進), 田波健太(早稲田大・院・先進), 友常満利(早稲田大・教育), 吉竹晋平(岐阜大・流圏セ), 小泉博(早稲田大・教育)

 冷温帯放牧草原において赤外線ヒーターを用いた温暖化操作実験を7年間行い、炭素循環プロセスの長期的な温暖化応答および応答要因の解明を目的とする研究を行った。そのために、①生態系純生産量(NEP)、生態系呼吸量(Reco)、生態系総生産量(GEP)の3つの炭素フラックスを、密閉チャンバー法により測定した。さらに、Recoを細分化して温暖化応答の要因を解明するために、②草原生態系の土壌呼吸(Rs)を非破壊的に測定する手法の開発を行った。その手法によって③Recoを植物体地上部呼吸(Ra)、植物体地下部呼吸(Ru)、土壌微生物呼吸(Rh)の3構成要素に細分化し、炭素放出量の温暖化応答の要因を解析した。
 その結果、①温暖化によってNEPは7年間変化しなかったが、RecoとGEPは温暖化後1—4年の間にそれぞれ0.50—0.75、0.64-0.74 kgCO2 m—2増加し、5—7年の間は変化しなくなった。このことから、一貫してNEPが変化しなかったのは、温暖化初期においては炭素放出と吸収の両方が同程度増加したこと、後期においてはそれらの増加が元に戻ったことが原因であり、炭素フラックスの温暖化応答は経年変化することが明らかになった。また、RecoとGEPの増加は、温暖化による植物体地上部バイオマスの増加との相互作用に由来することが示唆された。②については、草原の植物体間の土壌に設置可能な小型チャンバーを開発した事で、非破壊的な土壌呼吸の測定が可能となった。③その手法によって最終年(2015年)のRecoを細分化したところ、RaとRuは増加、Rhは減少していた。したがって、温暖化によってRecoが変化しなくなった最終年においても、その構成要素は潜在的に温暖化の影響を受け続け、植物と微生物で異なる温暖化応答を示していたことが明らかになった。


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